Episode:89
「そーいや、ユーニス姉は来ねぇの?」
訊かれて、ヘイゼルお姉さんが答える。
「夕べ徹夜したとかで、少し寝てから来るとさ。ホントあの子は忙しいよ」
いちばん下のお姉さん地元紙の記者だって言ってたから、きっといろいろ大変なんだろう。
「さてっと。ずーっと抱いてたいとこだけど、そうもいかないな。行こうか」
お姉さんが車のエンジンを起動させた。
「あーしまった、あんま魔力残ってないな」
「平気だろ。俺とルーフェイアが居りゃ、魔力の充填出来っから」
「おや、そりゃ助かる」
そうしてるうちに車が走り出した。
「それにしても、魔力の充填出来るってのはいいね。うちの農場でも幾つかダメになりかけたのがあるんだけど、やってってくれないか?」
「時間ありゃ幾らでもやるけどさ……今回寄る時間、ねぇからなぁ」
「あー、そうだっけ」
前を見たままお姉さんが答える。
「……んじゃ明日の朝にでも、父さんのとこへ持ってくっか。そうすりゃ出来るだろ?」
「出来っけど……ふつうはそんな、すぐに出来るもんじゃねぇぞ? 俺とルーフェイアが揃ってっから出来んだからな」
お姉さんが、少し首をかしげた。
「イマド、アンタだけじゃだめなのかい?」
「出来りゃ今までやってる」
簡潔な答えに、お姉さんがうなずく。
「そりゃそーだ。じゃぁアレだな、今度からいつも、2人で来てもらわないと」
「俺ら充填係りかよ……」
イマドがぼやいた。
けどお姉さん、その程度じゃ太刀打ちできないほど豪快だ。
「このくらいでグチグチ言うとか、お前懐狭いな。つくものついてんのかい?」
「それとこれとは関係ねーだろ……」
イマドが毎年ため息混じりにアヴァンへ帰る理由が、ちょっと分かった気がする。一人だけでもこの調子なのに、こんな人があと3人も居たら、大変なんてものじゃない。
ただそうは言いながら、長い休みのたびにちゃんと帰るんだから、嫌いってワケでもないんだろう。
窓の外は町並みが消えて、ゆるやかな草原になってた。ピンク色に染まる木がところどころ、何本かづつ固まってあって、地面はどこまでも萌黄色だ。
少し下った先は去年の夏に行った、大森林が広がっていた。
綺麗だな、と思う。
シエラに来る前も、どこかでこういう光景は見ているはずだ。けど単に瞳に映っているだけで、きちんと眺めたことなんてなかった。




