Episode:86
「頻繁にって姉貴、ケンディクからここまで、どんだけかかると思ってんだよ! 長い休みじゃねぇと、来られねぇっての」
「なら、ここへ住めばいいじゃない」
最初はお弁当のはずだったのに……どこまで話がそれていくんだろう。
「ここからシエラまで、通えねぇだろ」
「あらでも、学校はここにだってあるでしょう?」
瞬間、イマドの表情が変わった。
「――姉貴、黙れよ」
初めて聞く硬い声。けどそれでもお姉さん、平然とした顔だ。
「どうしたの? イマドったら怖い顔して」
「しらばっくれんな」
本気で怒ってる……と思った。こういうイマドは、あたしは見たことない。
「姉貴だろ、おじさんにいろいろ吹き込んでやがんの。シエラの噂とかも、あることないこと言っちゃぁ、こっち来させようとしてるよな?」
「あら、あたしは何も」
「俺に、嘘が通ると思ってんのか?」
すっ……とイマドが詰め寄った。
「ンなことすんなら、俺は二度とここ来ねぇ。理由も全部、おじさんにバラす」
さすがにお姉さんが青ざめる。どうやら裏で、それなりにいろいろやってたらしい。
「わ、私はあなたのことを思って……だってあんな学校、ふつうじゃないでしょう?」
「勝手に横から、人の人生決めてんじゃねぇよ! てーかアンタ、俺がシエラ行ったときも親父が死んだときも、なんかしてくれたのか?」
お姉さんが押し黙った。
イマドが他のお姉さんたちも見回す。
「ヘイゼル姉もユーニス姉も、ヘンなことすんなよ」
けど下のお姉さん2人は、けらけらと笑い出した。
「あー、あたしはなんもしてないよ。てーかね、そんなことしたってイマド、アンタが言うこと聞くわけないだろ」
「そうそう。だからムリだって、アネット姉に言ったのに。アネット姉はいい子だから、そーゆーのって分かんないんだろうけど、あたしなんてはねっ返りだからねー」
どうやらこの姉妹、性格だけじゃなくて考え方もかなり違うみたいだ。ただどちらかというと、下の2人が割と近いんだろう。
「これで分かったでしょ、アネット姉。そういうの、ムリなんだってば」
「んだね。人なんて自分で決めたことっきゃ、納得行かないもんだよ」
妹2人がお姉さんを説得にかかる。
「でもほら……お父さん、イマドを跡継ぎにしたいって……」
さっきバスの中で会ったおばさんも言ってたけど、イマドはけっこう勉強が出来るから、そう思う人が多いみたいだ。
――ちょっと、分かるかも。
たしかにシエラなんていうところに小さい頃から居て、就職先もそういう関係になるよりは、お医者さんのほうがいいと普通は思うだろう。
ただそれが、本人のやりたいことや面白いと思うことと、一致するとは限らないわけで……。




