Episode:85
「ほら姉さん、このくらい持ちな」
最後のひとつ、きれいに色づいたカロットが1本、アーネストお姉さんに渡される。
「あら、ありがとう、ちょうど切らしてたのよね。もう少しもらってもいいかしら?」
「違うっての!」
やっぱりこのお姉さんとやってくの、とても大変そうだ。と、アーネストさんの傍にいた女の子が近寄ってきた。
「おねーえちゃん♪」
「あ、ネミちゃん。背、伸びたね」
前に焼けたアパートから助け出した子だ。
イマドも大柄だけど、この子も年の割に大きい。6歳も年の差があるのに、背はあたしと頭半分しか違わなかった。
「お姉ちゃん、今日はおじいちゃんち泊まってくの?」
「うん。でもいろいろあって来るの遅くなっちゃったから、ひとつかふたつしか泊まれないかも」
ネミちゃんがちょっと悲しそうな顔になった。
「お母さんも言ってたけど、やっぱりそうなんだ」
「ごめんね……」
こんな小さい子に悲しい顔をされるのは、さすがに辛い。
けどネミちゃん、すぐに笑顔になって顔を上げた。
「じゃぁ、いっぱい遊ぼう! 明日ね、一緒にお出かけしたいの。ダメ?」
「あ、うん、もちろん。いっぱい遊ぼうね」
いい子だな、と思う。今も自分がワガママを言いかけたのに気づいて、気持ちを切り替えて笑顔を見せてくれた。
――助かって、良かった。
あの火事のとき助けられなかったら、こんな可愛い笑顔は見られなかったはずだ。
「どこへ行こうか?」
「ピクニックー!」
元気のいい答えが返ってくる。
「イマドおにいちゃん、お弁当作って。ね?」
「お前まで頼むか……」
けどイマド、口じゃそんなこと言いながら、まんざらでもないらしい。顔は嬉しそうだ。
「だって。お兄ちゃんが作るご飯、お母さんよりおいしいんだもん」
「あらぁ、ネミったらひどいわ。お母さん泣いちゃおうかしら?」
ニコニコ言ってるアーネストさん、なんか凄く怖い。
「毎日あんなに頑張って、ご飯作ってるのに」
「知ってる、知ってるってば!」
お母さんの性格はよく承知なんだろう、ネミちゃんが慌てて言った。
「でもほら、たまに食べるのっておいしいんだもの! お兄ちゃん、あんまり来てくれないし」
「あぁ、それはそうね。イマドったら滅多に来ないものね。そもそもイマド、あなたがもう少し頻繁に来てくれれば、ネミも喜ぶのよ。なのにあなた、何で来ないの?」
なんだか論旨がずれていく。




