Episode:82
「まったく、人がせっかく、腕によりをかけて作ろうって言うのに……」
「かけねぇでいい! つか俺がやる!」
荷物を放り出すみたいにして置くと、イマドが台所へ向かった。
なんとなく、あとをついていってみる。
「ん? どした?」
「あ、うん、なんでもない……」
ここにいたら邪魔なのは分かってるのに、あたし何をしてるんだろう?
けど、イマドは怒らなかった。
「向こう側座ってろよ。パンでも焼くから」
「――うん」
役に立たないな、とちょっと落ち込みながら、あたしは指差されたテーブルのほうへ移動した。
と、声が響く。
「きゃー、ルーちゃん来てたの? 相変わらずかっわいーっ!」
黄色い声に面食らってると、イマドが奥から顔を出した。
「姉貴、ルーフェイア驚かすんじゃねぇっての」
「あーごめんごめん、可愛いもんだからつい」
イマドが「姉貴」って言うんだから、ここのお姉さんたちの誰かで――うろ覚えだけど、一番下の人だっただろうか?
「あ、もしかしてルーちゃん、覚えてない?」
お姉さんが、あたしの顔を覗き込む。
「えっとあの、たしか……ユーニスさん、でしたっけど……」
「わ、すごい。1回会っただけなのにちゃんと覚えてるなんて!」
どうやら合ってたみたいだ。
「つーか姉貴、よく休み取れたな」
ジャムを塗ったパンを手に、イマドが台所から出てきた。
「いっつも忙しい休み取れねぇって、呪文みたいに言ってたじゃねぇか」
「取れたんじゃなくて、取ったの」
お姉さんが、どうだと言わんばかりの表情をする。
「いっつも尻拭いばっかだもん、たまにはあたしだって休む権利あるわー」
腰に手を当てて威張ってる。けど、誰に対してだろう?
「まー、姉貴に逆らったら命ねーもんな」
「あぁん? どういうことそれ?」
たしかにこのお姉さん、逆らったら危険そうだ。
というか、おばさんといいこのお姉さんといい、イマドがボヤくだけあってホントに個性派ぞろいだ。
「あの、お仕事……何してるんですか?」
ちょっと好奇心に駆られて訊いてみる。一番下のお姉さんが仕事してるのは、前から話の内容で分かってたけど、職業は聞いたことがなかった。
「あれ、知らなかった? あたし新聞記者。ってもこの町の地方紙だけどね」
「すごい……」
イマイチよく分からないけど、けっこう大変な仕事じゃないだろうか?




