Episode:80
「将来安泰だねぇ。アンタ頭いいし、こんな可愛い相手もいて」
「えーと、ですから……」
ムダだろうな、と思う。おばさんっていうのはどういうわけか、こういう時って話を聞かないものだ。
「いいよいいよ、全部言わなくたって。それよりほら、ちゃんと座って」
完全に子ども扱いされて、イマドが仏頂面してる。
「ったく、なんでこう……」
「それよりイマド……座ろう?」
2人で適当な席へ並んで座った。あたしが窓側だ。
まだ春先のせいか、建物の窓辺はさびしかった。南のケンディクだともう花でいっぱいだけど、ここはまだちょっと芽吹いている程度だ。
けど町並みは綺麗だな、と思う。
曲線が多いケンディクと違って、ここはかっちりした直線で構成されてる。ただどの建物も、どっしりした感じで趣があった。それによく見ると、細かいところでさりげなく装飾がされてたりする。
その町並みが移って行って、イマドのおじさん家が近づいてきた。
「降りねぇと」
「うん」
今度は膝の上に置いてたから荷物を取る必要もなくて、肩にかけて立ち上がる。
「ザニエス先生によろしく言っといとくれー」
「はい」
知らないおばさんの声を背に、バスを後にした。
「ここ、だったね……」
「そだな」
何の変哲もない、街中の大通り。でも、思い出の場所だ。
「いきなり泣いてっから、焦ったぜ」
「言わないで……」
今でもあたしあまり変わってなくて、何かあるとすぐ泣いてしまう。けど他人にこうやって指摘されるのは、ちょっと恥ずかしかった。
「なら、やるんじゃねーよ」
そういうイマドの顔は、笑ってる。分かってて、面白がって言ってるだけだ。
「でも……不思議かも」
思ったことが、つい口をついて出る。
「不思議? 何がだ?」
「えっと……だってあたし、この町ってたまたま来ただけで。なのにこんなふうに、シエラに行けて、また戻ってきてみて……」
「あー、その意味じゃそーかもな」
イマドも同意した。
あの頃のあたしにとって、学校はいちばん憧れていたものだ。なのに今、こんなに簡単に学校へ行けていて、たまにこうして旅行までしている。




