Episode:76
「いや、大丈夫だよ。ただやっぱり、ちょっと疲れたらしい。休んでいいかな?」
「あ、はい、実はその、あたしも……」
先輩の無難な理由にルーフェイアも賛同して、話がまとまる。
「じゃぁ、用意してもらった部屋にでも――あ、そうだ」
先輩が立ち上がりかけて、言う。
「さっき治療しながら、思い出したことがあったんだ」
ちょっと真剣な表情だ。
「なんです?」
「それが――気になる噂があってね」
俺はもちろん、ルーフェイアにも緊張が走る。こんなときにこんなふうに切り出される噂なんてのは、ろくなもんがない。
先輩も俺らの様子に気づいて、頷いた。
「もう分かったみたいだが……君たち、ここへ来る前に軍に遭遇したって言ったね?」
「ええ。けっこう大きい部隊でした」
なんで移動してたのかは知らねぇけど、ちょっと見回りって規模じゃなかったのはたしかだ。
先輩がため息つく。
「やっぱりそうか。裏は取ってないんだがロデスティオ、国境線を拡大したいらしい」
「え……」
ルーフェイアと顔見合わせる。ロデスティオの国境は広いけど、そのひとつが俺らが行こうとしてる、ルアノン近辺だ。
んで悪りぃことに、軍が行ってたのはその方面だ。
「じゃぁもしかして、アヴァン侵略?」
「分からない。だがそういう動きはあるらしい」
最悪だ。てかこのままだと、シエラへ帰れねぇ可能性さえある。
ここからシエラ帰るにゃ列車で西の海岸方面出て、南のワサール側からか、北のアヴァンシティから船だ。ただどっちも共通してんのは、長距離列車が足になってることだった。
そこがこのままだと、押さえられちまう可能性が高い。もちろんそうなったら、俺らそう簡単にはユリアスへ行けねぇ。
「まだ、列車って動いてます?」
「ああ、今は動いてる。だからなるべく早くここを発って、北周りで学院へ戻ったほうがいい」
「ですね……」
南は列車が止まってっから、そのルートしかない。それに急がねぇとだ。
「切符は取れそうかい?」
「まだですけど、ともかく早く取ってここ出ます」
途中の叔父さんとこも、顔だけ出してすぐ切り上げたほうがよさそうだ。あと何より、あの町に知らせたほうがいい。




