Episode:72
「当たり前さね、あんな目に遭ってやっと来たんだから。なんならここで、何日か逗留するといいね。少しゆっくりせんと、参ってしまうよ」
「ありがとうございます」
ホントは早く発ちたいとこだけど、それは言わなかった。まさか今から発つわけじゃなし、列車の手配できるまでは動きようがない。
「なんか飲むかい? それともすぐ休むかい?」
「あ、寝ます。夜通し走竜で歩ってきたんで」
けど言ったとこで、また扉が開く。
「あれ、先生さん、ご苦労様です」
戻ってきたのはクーノ先輩だ。
「あの奥さん、どうしました? この子、連れてってやっていいですかね?」
「いや、今晩だけはあのままにしておいてください」
先輩も朝早く叩き起こされて手当てさせられてなのに、にこやかに答える。
「子供には可哀想ですけど、離しておかないと母親ってのは、すぐ面倒見てムリしますから」
「あー、そうですね。んじゃ坊やはこっちで預かって、面倒みときますよ。今はちょうど寝てますし」
さすがばあちゃん、子供の扱いはベテランだ。
「先輩、あのおばさん、具合どうなんです?」
いちばん気になることが出てこねぇから、こっちから話を振る。
「あの人なら、大丈夫だよ。ただ数日は安静だね。あと左腕は、当分使えないんじゃないかな」
先輩平然と言ってっけど、それ大丈夫じゃねぇって……。
どうも医療関係の人ってのは、命さえ助かりゃ「大丈夫」扱いすっから困る。
「んじゃおばさんは、しばらくここですか?」
「そうだね。経過も見たいし、村長の奥さんが引き受けるって言ってくれてるから、数日はここに居ることになると思う」
だいたい、想像してた通りの展開だ。これだとさっき話してた通り、俺らだけ先に行くのがいいだろう。
先輩のほうも、俺との会話でピンと来たらしい。
「君たちはいつ発つんだい?」
「まだ決まってません。けど新学期があるんで、なるべく早めにと思ってます」
旅行に行った先でゴタゴタ巻き込まれて、新学期に間に合わねぇとか願い下げだ。
「てか元々、ここ来る予定なかったですし……」
「さっきそう言ってたね。何があったんだい?」
先輩に訊かれて答える。
「南のほうがテロで列車が止まってるって、言いましたっけ?」
「それは聞いたよ。だから走竜だとも。ただそれを考えても、なんで軍用でこっちへ来たのかは謎だが」
そりゃそうだろう。方向だっておかしいし、そもそも怪我人連れて来るようなとこじゃない。




