Episode:64
「あれ、あんた、たしか……」
「えっと、去年はお世話になりました」
ぺこりとルーフェイアが頭を下げて、金髪が流れ落ちた。
「いや、そりゃこっちが言うことさね。それにしてもアンタ、どうなさったよ、こんな時間に」
「あの、それが……」
ルーフェイアがこっちを指し示す。
「あんれ、連れが居なさったかい。それも走竜なんて、山でも越えて来たかね」
「あ、はい、そうです。それでいま、風の丘から……」
地元民のばあちゃん、これだけでだいたい話が通じたらしい。
「そりゃ大変だったねぇ、あの道を走竜で超えるなんて、よっぽどの事情だろうに。ささ、ともかく上がんなさい」
ばあちゃんが俺達を招き入れた。
「走竜はほら、とりあえずその辺の柵にでも繋ぎなさって――あれ、こちらの方はどうされたね」
おばさんの様子に気づいて、素っ頓狂な声を上げる。
「あの、途中に軍が居て、撃たれたんです。それで行き先変えて、ここまで……」
「そりゃ大変だ、すぐ医者さん呼ばんと。あんた、あんた!」
ばあちゃんが大声上げて、家の中へ駆けてった。
なんだか中でまた声が聞こえて、今度はじいちゃんが出てくる。
「おぉ、お嬢ちゃん、どうしたかね。お連れさんが怪我したと聞いたが……」
「はい。あの、それで、クーノ先輩……じゃなくて、お医者さんを」
じいちゃんが頷いた。
「すぐ呼ぶよ。その調子じゃ、熱もありそうだね」
優しい感じのじいちゃんだ。この調子で、村の人の面倒見てんだろう。
「連絡してくるから、家に入ってなさい。お前、この人たちに休む場所を」
「ええ、ええ。すぐ用意しますとも。ささ、こちらへどうぞ」
こんな夜明け前なのに、すぐに手足を洗う水やら、飲み物やらが用意される。ものすごい手際の良さだ。
「すみませんね、こんな残り物しかなくて。昼にはもう少し、マシなものを用意しますから」
「いえ、十分です」
あったかいお茶にパンとスープまで出されて、そんでも文句言うやつとか、食うんじゃねぇって思うし。
「ささ、そっちの方はとりあえず、ここに寝てくんなまし。ベッドじゃなくて申し訳ないです」
「いえ、こちらこそ申し訳ないですよ……こんな時間なのに」
そういうおばさんに、ばあちゃんが手を貸してソファに寝かせる。
「何言ってますか。子連れでここまで山越えて来るなんて、並大抵じゃないでしょうに。お子さん預かるから、ゆっくり寝なさいな」
「助かります……」
よっぽど安心したんだろう、言うが早いがおばさん、たちまち眠り込んだ。




