Episode:63
「こっから、遠いのか?」
「ううん。ここからは、いちばん近い村だから……」
湖の反対側とか言ったらどうしようと思ったけど、これならたぶんすぐだ。
ルーフェイアが、迷いなく進んでく。っても丘を下る一本道だから、方向さえ合ってりゃ迷いようがない。
大丈夫そうだと見て、俺は隣の走竜のほうに目をやった。
「おばさん、起きてます?」
「ああ、一応ね。着いたんじゃなかったのかい?」
ちょっとぼんやりしてるおばさんに、事情を説明する。
「あともう少しで、医者やってる知り合いのとこに着きますから」
「そうかい、助かるよ。ほんといろいろ、済まないね……」
医者行けるって聞いておばさん、気が緩んだらしい。また眠り込みそうになってる。
「おばさん、医者着くまで頑張んないと。寝てる場合じゃないですよ」
大丈夫だとは思いつつ、声かけた。
状況が一段落したときってのは、いちばん危ねぇ。気力が尽きて一気に悪化して、そのまま死んじまったりする。
逆にどてっ腹に大穴開けられて棺桶に片足突っ込んだのに、うなりながら「治ったら仕返ししてやる」って思い続けて、生還しちまった例もある。その辺考えると、気力ってのは侮れなかった。
「子供だって、着いたら診せてやったほうがいいし、寝てる場合じゃないです」
「そうか、あの子もたしかに診てもらわなきゃ。しゃんとしないと」
子供の一言で気力戻るとか、やっぱ母親ってのはすげぇ。子連れの獣に手出すなって意味が、なんかよく分かる。
それから少し進むと畑が出てきて、ちらほら家も見えてきた。たぶんこの辺が、ルーフェイアが言ってた村だろう。
いくつか建物を過ぎて、ひときわ大きな家の前でルーフェイアが走竜を止める。
「……待ってて」
言ってルーフェイアのやつが走竜降りて、待機の命令出して、家のほうへ歩き出した。
暗い中見回したけど、やっぱ立派な家だ。大きい造りも凝ってて、住んでるのはこの辺の有力者だって、見ただけで分かる。
中は意外だけど、明かりついてた。もうしばらくすりゃ空が白みだすから、早起きな田舎じゃ、女の人なんかは起きてんだろう。
ルーフェイアが遠慮がちに戸を叩く。
「誰だい、こんな朝早く」
「あの、すみません、村長さんに……」
まだ暗いってのに外から聞こえた女の子の声に、中の人も相当驚いたらしい。すぐに戸が開けられた。
顔を出したのは、けっこ年行った感じのばあちゃんだ。




