Episode:62
暗い坂道を、走竜は黙々と歩いてく。
片側は切り立った山肌で、反対側は小川のある谷底だ。その川原から少し上の辺りに、俺らの通ってる道がある。狭い道幅は、走竜2頭がすれ違うのがやっとだ。
前のほう行ってる連中からも、ほとんど会話は聞こえない。ジマリってにいちゃんの膝に移ったおばさんの子供も、寝ちまったらしい。だからすげぇ静かだ。
周りも、取り立てて気配はなかった。たまに小動物らしいのが脇の藪を通っけど、そんだけだ。大型の獣の気配もないし、軍の気配もない。せせらぎの音と夜鳥の声だけを背景に、時間が過ぎてく。
そうやってずいぶん歩いた頃、急に辺りが開けた。
「すげぇ……」
思わず声が出る。
山道の終わりは、風の吹き渡る丘だった。早い話、山の上の盆地に出た格好だ。
今までの傾斜と打って変わって、なだらかに下る丘。そしてその先は――。
「あれがノネ湖か。でけぇな」
「……うん」
いつの間にか隣に来たルーフェイアのやつが、うなずく。
世界最大級の湖、ノネ湖。たしか南北に長くて、ここは南の端になるはずだけど、それにしたって向こう岸がよく見えねぇ。
そして昏い水面には月が映りこんで、異世界にでも迷い込んだ感じだった。
「んで、知り合いがいるんだよな、この辺に」
「うん。イマドもたぶん、知ってると……思う。シエラの、卒業生だから」
意外な言葉を、ルーフェイアのヤツが口にした。
「何て名前だ?」
「えっと確か……クーノ先輩」
聞いて思い出す。たしかメチャクチャ頭よくて、在学中に医務官の資格取って、話題になってた人だ。
「けどなんでそんな先輩が、こんな辺境居るんだよ。ふつうはどっかの軍とか、そーゆーとこだろ。医務官だし」
「そうなんだけど……でも、無医村だからって……」
「あー、そういうことな」
医務官は軍に居るのがふつうだけど、外の世界で働いてることも、ないわけじゃない。
加えてここは、医者にも事欠く辺境だ。シエラ卒の医務官って言や、ありがたがって雇うだろう。
クーノ先輩はわりとおとなしい感じで、間違ってもバトルに突っ込んでくタイプじゃない。だから前線だのへ出るより、こういう道が合ってそうだ。
「村、どっちだ?」
「こっち……」
今度はジマリに代わって、ルーフェイアが先導する。




