Episode:58
「ジマリ、止まって」
「あ、はい」
走竜たちが止まる。
「あの、お嬢様、何が……」
「軍が居る……と思う」
根拠はない。カンだけだ。だけどこの気配は戦場に居たとき、いちばん近寄っちゃいけないものだった。
後ろに居たイマドが、隣に並ぶ。
「けっこう居んな。部隊丸ごと動いてっぞ」
「うん、そう思う……」
あたしはイマドみたいに見えるわけじゃないけど、同じものを感じてた。このまま進んだら、災厄の中に飛び込むだろう。
「あの、どうなさいますか?」
不安そうにジマリが聞いてきた。
「ちょっと、待って……」
考える。
最初に取ろうとしてたルートは、大雑把に言って北へ行って東だ。けどその東へ向かう進路に、なぜが軍が居る。
どう見てもこのまま進むのは、自殺行為だろう。なにしろロデスティオの軍だ。民間人がのこのこ入り込んで、助かるとは思えない。
けど今更進路を変えて、どこへ行くのか。船狙いでどこかの漁村へ行くにしても、軍の前か後ろを通らなくちゃいけないし、元々行こうとしてた町もそれは同じだ。
安全なところと言ったら、引き返すか、アテもないままこの先のネムナ山脈へ分け入るか……。
そこまで考えて、はっと気づく。
けして高いとは言えないネムナ山脈は、その中央に世界最大級の湖・ノネ湖を抱えるので有名だ。
去年の夏行った観光地、ノネ湖。そこなら最初の目的地よりは少し遠いけど、知り合いも居るし列車も通ってる。
「……ノネ湖、行けない?」
「ノネ湖ですか? ええ、行けますが、なぜ?」
不思議がるジマリに、あたしは答えた。そこまで行けば、医者の知り合いが居ること。その村にもツテがあること。それに列車も通っていること……。
「最善じゃないけど、軍を突っ切るよりは、マシだと思うの」
「たしかにそうですね……ここからなら、1日余計に見れば行けますし」
行き当たりばったり過ぎて、ちょっと自分でも呆れてしまうけど、何とかやれそうだ。
「じゃぁ、そっちで。ロジーヌさんすみません、我慢してもらえますか?」
「あたしだって、あんな軍の連中に捕まるなんて、金輪際ゴメンだからね。我慢も何もないよ」
おばさんが笑って言う。
「ありがとうございます。――ジマリ、案内して」
「分かりました」
あたしたちは進路を変えて、また走竜を走らせた




