Episode:52
左手がダメなのは、肩辺りを撃たれたからだろう。でもこれで済んだのは、むしろ運がいいほうだ。
ほっとしながら、訊いてみる。
「何が……あったんですか?」
おばさんが首を振った。
「よく、分からないんだよ」
それでもぽつりぽつりと、話し始める。
「少し後ろに走竜つないで……林のはずれでバティスと、草原見てたんだ」
その辺は、ジマリの言うとおりだった。
昔レデのママナ家が、冬を過ごしていたという草原。それを見せて、昔話をしてあげてたんだって言う。
「けどいきなり車が来て、イヤな感じがしたから、あの子かばったんだ。そしたら撃たれて……」
そのあとは必死で、林の中へ駆け込んだんだって言う。
「何とか……走竜のとこまで、戻ってね。で、綱解いてあの子乗せて、林の奥へ……行かせたんだ」
この辺の判断は、さすが母親だと思う。どうやったら子供がいちばん安全か、本能レベルで分かるんだろう。
「敵、捜索に来ましたか?」
本当はもっとゆっくり話を聞いて、慰めるべきだと思う。けど今は、その余裕が無かった。
「人数とか、場所とか……」
「来なかったよ。あ、いや、来たね。けど……うん、来たけど、すぐ帰った。見つからないかと、冷や汗かいたよ」
話を聞いて、ちょっと安心する。
相手が本気なら、必ず捜索に来てトドメを刺すだろう。そうじゃなくても、もう少し徹底して探すはずだ。
けどちょっと探して行ってしまったなら、そこまで気にかけてないってことになる。だったら、脱出組みとは思われてない。
推測だけど……あちこちを適当にパトロールして、何か見つけたら撃ってるんだろう。要するに点数稼ぎだ。
同時にあたしたちが見た車は、おばさんを撃ったのと、同じだろうと思った。
おばさんを撃ったあと、他にも獲物が居ないかと、探してたに違いない。そう思えばあの、探しているのに微妙に適当な感じが、納得がいく。
それにこの感じなら、バティスくんも無事だろう。林の中から出てさえいなければ、見つかっていないはずだ。
そう思ってるうちに、葉ずれの音が聞こえてきた。
「見つけたぞ」
声と共に3匹の走竜と、その上に乗った3人が現れる。イマド、ジマリ、それにバティス君。見た感じ、全員無事だ。




