Episode:42
ジマリが声をかけた。
「ツィリル爺さん、入っていいかな?」
「おうおう、入りなさい。開いてるよ」
ドアが開けられ、おっとりした感じのお爺さんに、部屋の中へ招かれる。中にはもうひとり、やっぱり優しそうなお婆さんがいた。
「カールプ殿から連絡をもらったよ。すぐ出るのかい?」
「ええ。お手数かけます」
ジマリが頭を下げて、お爺さんがあたしたちに視線を向けた。
「お、お嬢様?! お嬢様でございますよね!」
いきなり駆け寄ってきてひざまずく。
「お嬢様にお会い出来るとは、この爺、冥土への土産が出来ました!」
「えっと、えっと、その、立ってください……」
シュマーでも中心部はそうでもないのだけど、末端へ来るとこういう対応にたまに遭遇する。
――いったいあたし、中でどんなふうに言われてるんだろう?
聞いてみたい気がするけど、答えを聞くのは怖い感じだ。
「あの、ツィリル……さん、ですっけ? えっとその、ふつうにしてて、いいですから……」
心底思ってそう言うけど、だいたいこれは通じない。なぜか感激されて、もっとエスカレートするのが常だ。
「あぁ、なんとお優しい!」
やっぱり今回もエスカレートする。
そこへ、イマドの声が割って入った。
「じいちゃん、ルーフェイア困ってんじゃん」
「なんと? おぉ、これは失礼をば。えーと、どうすれば……」
ちょっとだけ、いつもと違う方向へ話が進む。
「んー、孫? 俺らたぶん、そーゆー年だと思うんで」
「おぉそうか、確かに孫か。うんうん、よーく分かった」
何だか分からないけど、おじいさん、納得したみたいだ。
「お嬢様、失礼しましたな。あー、これじゃダメじゃ……うーん、まぁいい。お嬢様、走竜でもう出なさるか?」
まだちょっと持ち上げ気味でヘンな感じだけど、さっきよりはずいぶんマシになる。
「えっと、みんなが良ければ……」
「お待ちくださいなお嬢様、よかったらこのお弁当を」
今度はお婆さんが話しかけてきた。
「このオルガ、腕によりをかけて作りましたよ。どうぞお持ちくださいな」
言葉と共に、お弁当が差し出される。
「うわ、すげーなこれ。料理上手なんですね」
自分も作るイマドが、真っ先に声を上げた。
「この飾り切り、俺できねーんだよな……どうやってんです?」
「おや坊や、これをやろうだなんて、たいしたもんだよ。何なら教えようか?」
料理教室が始まりそうな雰囲気だ。




