Episode:38
◇Rufeir
大きな町なのに、夜は意外なくらい暗かった。テロ騒ぎで、店や何かがお休みのせいだろう。
「恩に着るよ、リオーネ。こんなことまでしてもらって」
「だからそれは言わない約束。だいいち、ちゃんと脱出できたわけじゃないのよ?」
話してるのは、リオーネさんの所へ来てたロジーヌさんと、その子供のバティス君。
「もう会えないかもだけど、着いたら手紙だけでも書くよ」
「あら嬉しい。でもロジーヌさん、書くときは気をつけてね。場所がバレるようなこと書いたら、軍に見つかって連れ戻されるかもしれないわ」
「分かってるよ」
別れを惜しむ2人の会話は、ずいぶん物騒だ。逆に言えばそれが、今のこの町の状態を物語ってる。
ロジーヌさんが連れてきたバティス君は、あたしと同じくらいの身長だ。ただ、年はまだ9歳で、あたしたちより少し下だった。
攫われたのがよっぽどショックだったんだろう、お母さんの服の裾を、握って離さない。
「――お二方とも、そろそろよろしいですか?」
話が続くリオーネさんとロジーヌさんに、カールプが声をかけた。
「あまり遅くなると、夜の間に十分距離が稼げなくなりますので」
「そうね。名残惜しいけどロジーヌさん、早く行ったほうがいいわ」
「ああ、そうするよ」
ロジーヌさんもそう言って、荷物を背負う。
バティス君が荷物を避けて一瞬離れて、すぐに慌てた様子でくっついた。ちょっとでも離れたら、また攫われると思ってるのかもしれない。
――大丈夫かな。
これから逃避行なのに、万が一離れて泣き喚いたりしたら、置いていくしかないかもしれない。それを思うと心配だった。
「バティス、気持ちは分かるけど、服から手を離しとくれ。これから、町の中を行かなきゃいけないから」
ロジーヌさんに言われて、しぶしぶながらもバティス君が手を離す。
「いい子だね。いいかいバティス、これからこの町を出るよ。おじいちゃんとおばあちゃんの家へ行くから、それまできっちり言うこときいとくれ」
「町を、出る……」
か細い声で、バティス君が繰り返した。
「そうだよ。こんな危ない町、出るんだ。でもバティス、分かるだろ? あの軍の連中に見つかったら、タダじゃ済まない。だから言うこときいて、大人しくしとくれ」
「――うん、分かった」
不安そうな、でもどこかで安心したような、複雑な表情。
ただ、大丈夫かな、と思った。ロジーヌさんが上手く言ったのもあって、何をしなきゃいけないか、今はもうきちんと分かってる。




