Episode:36
「走竜、何体用意できるの?」
「ルーフェイア、待てって」
珍しく強引なコイツを止めに入る。
けど止めたものの、どうやって説得すっか考えてなかった。
「待てって言っても、向こうは待てないじゃない。すぐ脱出させてあげないと」
「けどよ、そんなすぐこっちだって、用意できねーだろ。つか素人が監視潜り抜けるとか、絶対ムリだって」
とりあえず、思いついたことから並べてく。
「てかさ、おっさんだって金が要るってるだけで、やらないとは言ってねーぞ?」
「そうだけど……でもお金取るなんて……」
要するに、優しくてお人好しなのが災いしてるっぽい。
「しゃぁねぇだろ。素人だけじゃ抜けられねぇんだから、誰か人付けなきゃだし。走竜だって貸すのはいいけど、死んじまって返ってこねぇとか有りうるし」
言ってから、自分であっと思う。走竜が死ぬってことは……乗ってる人も同じ運命だ。
確かにこの町の中もヤバいけど、外はもっとヤバい。走竜でどこかへってのは早い話、検問潜り抜けて逃げ出すってことだ。もし見つかったら、その場で殺される。
俺らはそういうの教えられてるし、訓練も受けてるから何とかなっけど、素人がやるにゃ荷が重すぎだ。
最低限、誰かそういうのに慣れた引率付けねぇと、道に迷って見つかるのがオチだろう。
同じことに、ルーフェイアのやつも気づいたらしかった。
「走竜だけあっても、ダメなんだ……」
「だな。監視の網抜けらんねぇ。つか、そもそも走竜に乗れねぇと思う」
「あ……」
俺らみんな乗れるから忘れがちだけど、走竜は車以上に乗るのむずかしいわけで。だから素人が乗ろうと思ったら、相当デカいやつを騎手つきで出して、2人乗りしてくしかない。
そうなりゃ、出すほうだってかなりの負担だ。
「人出して走竜出して、案内してヘタすりゃバトルしてだぞ。タダでできっかよ」
「うん……」
ルーフェイアがうつむく。さすがにそう簡単じゃねぇこと、分かったんだろう。
「お嬢ちゃん、いいのよ」
お姉さんが、ルーフェイアの肩に手を置いた。
「その気持ちだけで十分。それにね、脱出ルートがあるってだけで、みんなの気持ちが違うわ。望みがあるって凄いことだから」
「そう、なんですか……?」
ルーフェイアが顔を上げる。
お姉さんが微笑みかけた。
「そうよ、すごいの。それだけで人って、何倍も頑張れる。望みが無いのが、いちばん苦しいわ」
たぶんそうだろうと思った。終わりの見えねぇまま毎日逃げ回って暮らすのと、状況は同じでも生き延びる望みがあるのとじゃ、メンタル的にかなり違う。
お姉さんがもう一度笑って、おっさんのほうに向き直った。




