Episode:35
「ロジーヌさんとか、子供まだ、お嬢ちゃんくらいなの。それでホントに大変で」
さっきお姉さんがあっさりお金渡した理由が、分かった気がした。そんな小さい子まで攫われるんじゃ、親は生きた心地がしねぇだろう。
「だからお願い、乗せてあげて」
「なるほど、話は分かりました。走竜を出しましょう。ただし――」
おっさんがそこで言葉を切って、お姉さんを見る。
「タダというわけには、まいりませんよ」
「カールプ!」
ルーフェイアが声を上げた。
「相手の弱みに付け込むなんて!」
「ですがお嬢様――」
おっさんが言い訳しかけたけど、ルーフェイアは許さなかった。
「黙りなさい!」
一喝されて、おっさんが黙る。
――この辺やっぱ、シュマーの総領家だよな。
滅多に見せねぇけど、こういうときのルーフェイアはかなり高圧的で、女王さながらだ。
「いくらなんでも、足元見すぎでしょう? 困ってる人相手なのに」
そのとき、おっさんと目が合った。同時に、相手の思考が届く。
(申し訳ありませんが、お嬢様を説得していただけませんか?)
(俺に頼むなよ)
思わず突っ返す。そりゃたしかに俺なら説得出来っけど、おっさんが自分でやらないのが癪に障る。
けどおっさん、重ねて頼んできた。
(我々シュマーの者は、グレイス様に逆らえません。ですので、どうか)
今度は突っ返せなかった。
念話は、言葉以上の意味を伝える。んで今伝わってきた「逆らえない」が、ふつうの意味じゃなかった。
シュマーの人間はグレイスに従う。それは俺だって知ってる。
けどそれが自分の意思じゃなくて、かといって脅されてるんでもなくて、もう最初から本能に書き込まれてるに近い状態って……。
もしこれで、ルーフェイアのヤツが権力振りかざして喜ぶタイプだったら、とっくに大惨事だ。シュマー率いて破壊工作とかやられたら、たまったもんじゃねぇ。
おっさんがまた俺に伝える。
(このことは、お嬢様はご存知ありません。それからお金の件は、あとで実費を除いて、本人に返す予定です。そうでなければ、脱出した先で暮らせませんから)
要するに脱出の金として用意させて、覚悟試すのと当座の金を工面すんのと、いっぺんにやろうってんだろう。
(お嬢様は残念ながら、こういう腹黒いことには長けておりませんので……どうか説得を)
(――分かった)
ルーフェイアに気づけっても無理だし、話せば広まっておかしなことになっちまうだろうし。しかもコイツが命令してる以上、おっさんたちは従うしかねぇし。
さすがにこういうことじゃ、イヤとは言えねぇ。




