表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/182

Episode:181

「俺だって結局、何が出来るわけでもねーしな。まぁ、火の粉くらいは払えるけどよ。でも、そんなもんだろ」

「そうだね……」

 この世界を、思い通りに出来る人なんて居ない。


 どこかの国の大統領なんかはそれに近いと思うけど、けどそれだって「何でも」出来るわけじゃない。ましてや普通の人なんて、自分じゃどうしようもない事ばかりだ。

 その中でみんなが、何とかしようとしてあがく。ありとあらゆるものを利用して、時には手段を選ばない。そのために誰かを犠牲にすることさえある。


 酷い、と思った。

 でも同時に、責められないとも思った。

 たぶん世界はもともと、とても過酷なのだ。何もかもが足りなくて、奪い合ってばかりいるのだろう。


「弱肉強食、なんだね……」

 そうやって弱い人が潰れていく世界を、正しいなんて言いたくない。

 けど考えてみれば、獣の世界はそうだ。弱ければ子供でも年寄りでも、容赦なく切り捨てれられていく。優しさなんてどこにもない。


 その中で人は、弱肉強食から何とか抜け出そうとして、まだ抜け出せ切れずにいるんだろう。

 そんな無謀な試みを支えているのがそれぞれが持っている、小さな誇りや守りたい気持ちといった、何か「譲れないもの」なんだと思う。


「――悪かったな。なんか大変な旅になっちまって」

「ううん……」

 イマドの言葉にあたしは首を振った。


 確かに予想もしなかったことに巻き込まれたし、自分のしたことを思うといたたまれない。

 ただ、今は思う。あたしは知る必要があったのだ、と。

 知ったことでどんな結果に繋がるのかは分からないけど、あのまま肝心なことを知らずに居るのは、もう許されなかったのだ。


 ――それに。

 イマドの顔を見上げる。


「……なんだ?」

「うん、何でも……ない」


 一瞬怪訝な表情をした後、イマドは笑った。また読まれたらしい。

 あたしも少しだけ笑う。

 実を言うと、イマドがあたしと同じようにどこか壊れているのだと知ったとき、嬉しかったのだ。


 ――あれだけの惨事を引き起こしたことを、忘れてしまえるくらい。


 ずいぶん自分勝手だとは思う。

 けど、否定しようのない事実だった。あたしと同じ側にイマドが居ると知ったとき、すごくほっとしたのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ