Episode:181
「俺だって結局、何が出来るわけでもねーしな。まぁ、火の粉くらいは払えるけどよ。でも、そんなもんだろ」
「そうだね……」
この世界を、思い通りに出来る人なんて居ない。
どこかの国の大統領なんかはそれに近いと思うけど、けどそれだって「何でも」出来るわけじゃない。ましてや普通の人なんて、自分じゃどうしようもない事ばかりだ。
その中でみんなが、何とかしようとしてあがく。ありとあらゆるものを利用して、時には手段を選ばない。そのために誰かを犠牲にすることさえある。
酷い、と思った。
でも同時に、責められないとも思った。
たぶん世界はもともと、とても過酷なのだ。何もかもが足りなくて、奪い合ってばかりいるのだろう。
「弱肉強食、なんだね……」
そうやって弱い人が潰れていく世界を、正しいなんて言いたくない。
けど考えてみれば、獣の世界はそうだ。弱ければ子供でも年寄りでも、容赦なく切り捨てれられていく。優しさなんてどこにもない。
その中で人は、弱肉強食から何とか抜け出そうとして、まだ抜け出せ切れずにいるんだろう。
そんな無謀な試みを支えているのがそれぞれが持っている、小さな誇りや守りたい気持ちといった、何か「譲れないもの」なんだと思う。
「――悪かったな。なんか大変な旅になっちまって」
「ううん……」
イマドの言葉にあたしは首を振った。
確かに予想もしなかったことに巻き込まれたし、自分のしたことを思うといたたまれない。
ただ、今は思う。あたしは知る必要があったのだ、と。
知ったことでどんな結果に繋がるのかは分からないけど、あのまま肝心なことを知らずに居るのは、もう許されなかったのだ。
――それに。
イマドの顔を見上げる。
「……なんだ?」
「うん、何でも……ない」
一瞬怪訝な表情をした後、イマドは笑った。また読まれたらしい。
あたしも少しだけ笑う。
実を言うと、イマドがあたしと同じようにどこか壊れているのだと知ったとき、嬉しかったのだ。
――あれだけの惨事を引き起こしたことを、忘れてしまえるくらい。
ずいぶん自分勝手だとは思う。
けど、否定しようのない事実だった。あたしと同じ側にイマドが居ると知ったとき、すごくほっとしたのだ。