Episode:178
「じゃ。またおいで」
「お世話になりました」
頭を下げて、イマドと2人船に乗り込む。
「なんか、すっげー長かったな」
「うん……」
歩きながらイマドが言った。でも本当にそのとおりだ。
予定からは大幅に遅れてしまったけど、思ったより怪我の治りが早かったのもあって、どうにか授業が始まるまでに、シエラには帰れそうだ。
だけど……なんだか1年くらい、帰っていない気がする。
船でケンディクを発った時は、こんなことになるなんてまったく思わなかった。ふつうに列車に乗り継いでルアノンまで行って、数日泊まって帰るだけのつもりだった。なのにいきなり船でトラブルに遭って、列車も止まってしまって……。
せめて船を降りたところで諦めてケンディクに戻っていれば、何事も無かったんだろう。
「……ごめん」
「だからなんで謝る」
「だって、あたし居なかったら、イマドは怪我しなくて……」
あたしが居なければ走竜を使ってルアノンへ行けなかっただろうから、イマドもきっと怪我してない。仕方なく船でケンディクへ戻って、学院で休みを過ごして終わっただろう。
「――お前の論理の飛び方、たまに感心するわ」
イマドがあきれ返る。
「つか、どーやったらそこまで飛べんだよ」
「え、だって、でもそうだし……」
順を追って考えていけば、どうしてもそうなるだろう。
「今考てみりゃ、そうだったってだけだろ。あん時にンなこと分かっかよ」
「それはそうだけど……」
けどそういうことを考えるのが、危険を回避するためには必須だ。これが前線なら――まぁ今回はそれに近かったけど――死んでるだろうし、事実イマドは死ぬところだった。
けど自分が情けなくてうつむくあたしの頭に、ぽんと手が置かれる。
「サンキュな」
「え?」
あたし今なにか、お礼を言われるようなことをしただろうか?
顔を上げると、イマドの笑顔があった。
「そんだけ気にしてくれんなら、俺的には十分だって。てか人間なんて、どーせそのうち死んじまうんだし。そもそも俺が行くってったんだし」
「あ……」
言われて気づく。
イマドは確かに、危険を承知で自分の意思で行った。そして一つ間違えば死ぬような目に遭って……でも、後悔はしていない。
むしろあたしのほうが、ひどく後悔している。