Episode:173
お姉さんが、そうだとばかりに頷いた。
「ま、そうは言ってもあんなことがあった後だからね。町は歩けたもんじゃない。町守ってるアヴァン軍と、狙ってるロデスティオ軍とで小競り合いさ」
「んじゃ当分は、家戻れねぇじゃん」
イマドの言葉を、お姉さんも肯定する。
「ああ。ただどの家も抜け道あるからね。昼間こっそり戻っちゃ、何か取ってきたり罠仕掛けたりしてるよ」
ホントにルアノンの町、この手の話を聞くたび感心するしかない。今回も被害は最小限と言っていいだろうし、この先も当分は人的被害は無くて済みそうだ。
他の町も、こういうのを見習ってくれるといいのだけど……。
「あ、ここに居た。ヘイゼル姉さーん」
つい考え込んでしまったところへ、また別の声がかかる。
「もう行っちゃったら、どうしようかと思った」
「あんたが遅いんだよ」
駆けてきたのは三姉妹の一番下、ユーニスさんだ。
「だって新聞社行ったら、ちょっと知り合いに引き止められちゃって」
仕事をしてきたらしい。
「待てよユーニス姉、新聞社って何しに行った」
そのお姉さんへ、イマドが硬い声で言った。怒ってるみたいだ。
「何しにって、そりゃ仕事」
「ウソつけ。仕事は仕事でも、ルアノンのこと売り込みに行ったんだろ。――俺らのことダシにして」
言った内容にはっとする。イマドが言ってるのはつまり、この間断った「あたしたちの脱出の様子を新聞なんかに出して、世論の支持を集める」という話だ。
「どうせ約束なんて守りゃしねーと思ってたけど、やっぱりかよ」
「ちょっと待って待って、あたしもそこまでしてないってば!」
ユーニスさんが叫ぶ。
「そりゃね、話は出したよ? けど名前伏せてるし、どこの誰かも分からないようにしてるから。〝子どもが脱出〟って話だけ!」
「ホントかよ」
イマド、昔なんかあったんだろうか? ユーニスさんの言う事全く信じない。
「もう、これだけは信じてよ。あたしだってこの間言われて、ちょっと反省したの。しっかり考えないと、やられたほうはたまんないんだなって……」
言ってるうちに尻すぼみになるお姉さん、ちょっと可愛い。何だか小さい子みたいだ。
「ホント言うとスクープすっごく欲しいけど……でも全部出しちゃダメかなって……だからずいぶん考えて、妥協したんだから!」
「いい年こいて、今更ンなこと気づくなよ」
間髪入れずにイマドがこき下ろして、お姉さんがしょぼんと肩を落とした。これじゃどっちが年上か分からない。
◇お詫び◇
当初172話の内容が、173話としても投稿されていました。どうやらエラーがあった際に、二重投稿になってしまったようです。
1話だけの削除が上手く出来ませんので、本物の173話は、修正と言う形でupさせていただきました。
そのため投稿日が1日ずれていますが、ご了承ください