Episode:168
「それにしてもイマド、とんだ里帰りになったねー」
果実酒を一気に飲み干したユーニス姉が、けらけらと笑う。
「たどり着くまでにえっらい時間かかるわ、怪我はするわ。前代未聞じゃない?」
「るっせーな」
そのとおりだけど、言われるとなんか腹立つ。
「まぁいいじゃないか、無事だったんだし。何よりルーフェイアに来てもらえたしね」
叔父さんのほうは単純に喜んでた。連れて来い連れて来い言ってただけに、来ただけで嬉しいんだろう。
「傷はどうだ? シエラのほうも、そろそろ帰らないといけないだろう?」
「そなんだけど、座ると痛てぇからな……」
列車自体はさっきルーフェイアの言ってたとおり、個室でも取りゃ何とかなる。けどこの状態で学院帰ったら、思いっきりネタにされちまうだろう。それだけは勘弁だ。
「どっかでしっかり治して、それからのほうがいいんじゃないか? 父さん、どっか口利けるとこないのかい?」
「そうだな……」
ヘイゼル姉に言われて叔父さんが考え込む。
「この近辺じゃ、動いてる病院はないからな。かといってここに居たら、列車が止まって移動できなくなるだろうし。
いっそアヴァンシティの知り合いにでも、頼むほうがいいかもしれないな」
「そうしたらお父さん、この間同期の方で、教授になった方が居なかった?」
抜けてる割に妙なとこだけ記憶力のいいアネット姉が、口を挟む。
「どうせシティの病院にお願いするなら、上の方のほうが何かといいでしょう?」
「確かにそうだな。あいつなら案外面倒見もいいし、いいかもしらん」
首都行くならルーフェイア経由で殿下に頼むのが最強の気がすっけど、それは言わなかった。つかこんな状態殿下に知られたら何されっか分かんねぇし、貸しも作りたくねぇ。
「よし、明日頼んでみよう。緊急用の通話石網使わしてもらえば、大丈夫だろうし」
「そんなもん、私用で使っていいのかよ」
思わず突っ込む。いくらこの町の有力者だからって、公私混同しすぎだ。
けど叔父さん、とてつもなく腹黒だった。
「何を言ってる、救援を頼むに決まってるだろう? 人道援助だ。で、そのついでに怪我人を頼むだけだ」
「そういうことかよ……」
確かにその手で来られたら通話石使うの断れねぇし、向こうだって拒否はできねぇだろう。
「で、いつここ発つの? あたしさ、出来たら同行取材したいなー」
こういうときでも取材魂忘れねぇユーニス姉が、楽しそうに言った。
「脱出、包囲された町!って言って、怪我した少年少女に同行取材。病院に引き取られるまでをまとめたら、いい記事になるもん」
「ったく、ユーニスは相変わらずだよ」
ヘイゼル姉が肩をすくめる。