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息子たちが追いかけてきてくれました!!

 何故――。



 私はしばし、状況が飲み込めなかった。




 (しきみ)の毒で半日は動けないはずなのに。

 

 口をパクパクさせている私に、ニコルが苦笑顔で言った。



 

「ママってさ、自分では気づいてないんだけど、動揺が顔に出るんだよね」

「あぁ、そうとも。アシュタヤ様ぐらいわかりやすい嘘をつかれる方はいない。なにか仕掛けてくるとは思ったが、備えていて正解だったな」



 

 息子たちは私のくさい芝居を咎めるかのように、両方とも腕組みをして私を見た。

 



「大体、今まで一回も言ったことないでしょ、『後片付けは私がする』なんて」

「あぁ、たとえ流行り風邪で高熱出していても、皿洗いだけは代わってもらったことがないからな」

(しきみ)の毒なんてすぐに浄化魔法で浄化されちゃったよ。どんな毒でも浄化できる凄い魔法。僕たちが使えるなんて知らなかったでしょ? 秘密で特訓してたからね」

 



完全自動状態回復(オートリザレクション)】――。


 私は呆然と二人を見た。


 そんな魔法、教えたこともないどころか、私だって使えない。


 否、そんな高度な回復魔法を使い、保ち続けられる人間が、果たしてこの世に存在するのだろうか。

 

 息子たちは想像以上に――いや、想像を絶して成長していた。




 固まったままの私を見て、最初に口をとがらせたのはニコルだった。

 



「しかし全く、僕らと別れるにしてももう少しそれらしいムードと入念な準備ってもんがあるよね」

「そうそう、アシュタヤ様はいつもやることがガサツだ。俺たちがいないと生きていけるとは思えん」



 

 息子たちは半笑いの声で言った。



 

「だいたいママは料理をよく焦がす」

「きちんと整理整頓もできないものぐさ魔女だ」

「ドケチ、いや、ドドケチだし」

「朝も起きられん」

「酔っ払うとすぐに脱ぐよね」

「ウエストが弛んでこられたんではないですか?」

「歯ぎしりもうるさい」

「寝ていると人を抱き枕にしてくる」

「怒るとすっごく怖い」

「疲れるとすぐに帰ろうと言い出す」

「箒の運転が荒い」

「化粧も濃い」

「何にでもソースをかけて食べる」

 

 

 

 瞬間、私は思い切り右手の杖を振り抜いた。




 ボッ! と空間が蒸発する程の超高熱を発し、特大の火球がミゲルとニコルの間を通り抜けた。


 ジジジジジジッ! と周囲の水蒸気を尽く蒸発させながら宙を飛んだ火球は唸りを上げて空中を驀進し――。

 



 次の瞬間、臓腑を揺さぶるような爆音とともに爆発し、二人の背後に巨大なクレーターを作り上げた。

 

 

 

 パラパラ……と、辺り一面に土塊(つちくれ)が降り注いだ。


 あまりのことに固まっている二人に、私は腹の底から怒りの声を絞り出した。

 

 

 

「ついてくるなって……追いかけてきたら殺すって……!」

 

 

 

 ぼろぼろと、私の目から涙が溢れた。

 

 

 

「視界に入っても同じだって……! もう二度と会わないことを祈れって……!」

 

 


 途端に――。

 

 今度こそ私の膝から力が抜け、私は地面にへたり込んだ。

 

 

 

「バカ息子どもぉっ! なんで私の言うこと聞かないんだよおっ!」

 

 

 

 息子たちが追いかけてきてくれた。


 この善き息子たちと私は、まだ一緒にいられる。


 この美しく、強く育った息子たちが、まだ私を必要としてくれている――。




 その事実が嬉しくて嬉しくて――死んでしまいそうだった。

 

 

 

「私は母親だぞ! 母ちゃんなんだぞ! ちょっとは母親らしいことさせなさいよ! あんなにキメ顔で言ったのに……ばかっ! バカ息子ども……!」

 



 わああああん、と、私は手足をばたつかせ、歳甲斐もなく喚き散らした。


 それはあまりにも少女じみていて、みっともなくて、キツい光景だったに違いない。


 でも、数世紀ぶりに泣くことを思い出した私の涙腺は、もう調節が利かなかった。

 



 わんわんと声の限りに泣いていると、二人が私に歩み寄ってきた。


 そのまま、呆れ顔で両脇を抱えて立ち上がらせられた。

 



「もう……そんなに泣くほどのことじゃないだろ、みっともないなぁ」

「全く……ミゲルとニコルはあなたの息子です。たとえ聖女が相手だろうが神が(かたき)だろうが、地獄までお供しますよ、母様」

 



 うるさいうるさい、ばかばかばかばか、と繰り返しながら。


 私はべちゃべちゃの口で、二人の額にキスを落とした。


 ねぶるように思いっきりキスマークをつけてやると、二人がえへへと照れたように笑った。

 

 

 

 仲直りのおまじない――やったのは実に十年ぶりのことだ。

 

 

 

 所詮、育児経験のない魔女と、愛されたことのない人間の子供。


 最初のうちは随分感情のままにぶつかり合い、ケンカをしたものだ。




 だがそのうち、私か彼らか、どちらかが折れて謝りにいく。


 仲直りした事が確認できたら、私がその証として額にキスをする。


 そして、なんのわだかまりもなく、三人で川の字になって寝る。


 もつれて、壊れて、それでも誰かが不器用に組み立て、貼り付けて。


 私たち親子はそんなところから始まったのだったっけ。

 



 私の両脇を抱え、つま先をずるずると引きずりながら、息子たちは口々に言った。

 



「そう言えば母様、今まで言っていませんでしたが、実は王都の薬屋だった物件を買い取っていましてね。今からそこに向かいましょう」

「うぇ……? だれが、誰がそんなカネ貯めてたのよ……私は買った覚えないわよ……!」

「あはは、ミゲル兄ィが作ったエリクサーが思いの外売れてね。いざというときの潜伏先として買い取っておいたんだ」

「ばか、ばか息子ども。そんなカネあるなら自分たちのために使いなさいよ、ばか、けち、ばか、ばかけち息子」

「ちゃんと自分たちのために使っていますよ。いくら聖女と言えど王都で我々を火炙りにすることなどできませんでしょうから。潜伏先として有望です」

「あぁ、僕らは僕らの家を買ったんだからね。ママには明日からそこで薬屋の店主として頑張ってもらうから」

「うるさいうるさい! アンタたちが店番しなさい! 私は昼まで寝るんだ、王都なんてうるさいところじゃ寝られないじゃない、ばか!」

 

 

 

 ばかばかばかばか、と言いながら、私は息子たちにつれられ、どこかへと運ばれていった。

 

 

 

 この後、王都で再出発を果たした私たち親子は、地上最悪のアバズレ女・東の聖女と激突することになるのだけど――。


 それは今はまだ、先の話だった。

 

 

 


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良い点 両脇を抱え、つま先をずるずると引 一言 ギャン泣き愛おしすぎんかー? お店楽しみ!
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