表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/31

息子二人が無双しました!!

 パンを齧りながら、私は感知野を広げて彼らの姿を追った。


 ミゲルとニコルが現れると、魔女狩りの集団は驚いた様子だった。

 



『な、何だ貴様らは!?』

『ま、待て! こいつらは人間だ! 殺すな!』



 

 人間ならば殺すのをためらい、魔女ならば容赦なく火炙りにする。


 愚かな人間特有の残酷さに、ただでさえ苦いコーヒーが更に苦く感じた。

 

 集団の中の、僧兵の格好をした年配の男が進み出て言った。

 



『我こそは王都より派遣されてきた異端審問官である! ここに潜伏する《(しきみ)の魔女》の拘束を命じられてこの地へ来た! お前たち、奴の潜伏在所を知らぬか!』



 

 ミゲルとニコルは顔を見合わせ、私も少し眉をひそめた。


 異端審問官――それは魔女の天敵であり、国家公認の異端狩りのエキスパートだ。


 そこらの村人とは違い、彼らに居場所がバレるのは少々厄介なことであった。

 



『居場所を知って、拘束して、それからどうするんですか?』

 



 ニコルがあっけらかんと訊ねると、異端審問官は当然の如く言った。

 

 

 

『何を馬鹿なことを。魔女は見つけ次第拘束し、裁判の後に火炙りに処す。その遺灰は二度と復活できぬように国中にばらまく――魔女狩りならば手順は決まっているだろう?』

『なるほど』

 

 

 

 その瞬間だった。


 ミゲルが右手をさっと構え、異端審問官に向けた。

 

 

 

『つまり――今ここで死にたいということらしいな』

 

 

 

 その言葉と同時に、ミゲルの右手が強く発光した。


 途端に、地面から屹立した無数の光の柱が異端審問官を取り囲んだ。


 それはまるで光の牢獄――。


 ぎょっと、異端審問官が目を剥き、ミゲルを見て喚いた。



 

『な――!? なんだ、貴様らは!? こ、この光は一体……!?』

「へぇぇ、【上級光槍(パラディンアロー)】! アンタこんな凄い魔法いつの間に覚えたの!?」

『あなたの眷属ですからこの程度は当然です』



 

 私の独り言に律儀に返答しながら、ミゲルは脅すように異端審問官に唸った。



 

『おい貴様、今ならまだ無傷で王都に帰してやる。もう二度と《(しきみ)の魔女》を追わないとここで誓え』

『なっ――!? き、貴様らは魔女の眷属か、おのれ……!』



 

 僧兵は慌てて光の柱に組み付いたが、光の柱はびくともしない。


 そりゃそうだろう、【上級光槍】はその気になればドラゴンだって容易く拘束できる魔法だ。


 如何に異端審問官といえど、ひとりでこれを破ることなど逆立ちしたって不可能だ。



 

『無駄ですよ、兄の拘束魔法は僕にすら破れませんから――さて、あなたたち』



 

 ニコルが手に手に武器を持った村人たちににこやかに話しかけた。


 この殺気まみれの人間たち相手にも表情を変えずにに話しかけることができる。


 それがこのニコルの凄いところでもあり、恐ろしいところでもある。



 

『皆さん、随分恩知らずですねぇ。《(しきみ)の魔女》はあなたがたの病を癒し、魔物を退治していたのに。皆さんとは結構打ち解けられたと思ってたんですが……僕の勘違いだったとはとても残念です』



 

 その一言に、村人たちがはっきりとたじろいだ。


 そりゃそうだろう、今まで私は村人たちに敢えて恩を売っていたのだ。


 病が流行ればポーションを調合し、安価で売り渡してやった。


 危険な魔物が出れば率先して退治して、田畑を守ってやった。


 私がいなくなればこの地に不利益だと思わせるために、万全に撒き餌はした。


 その不利益さえ天秤にかけて異端審問官なんぞ引き入れるとは――やはり人間は徹底的に愚かだ、私の息子以外の人間は。

 



『んな……何をしている! 臆するな、殺せ! 魔女の眷属を殺すんだ!』



 異端審問官が怒鳴ると、怯えたような声を出してから村人数人が斬りかかかってくる。


 今度はニコルが左手を上げた。



 

『残念だなぁ。でもあくまで対応はソフトに、だよね……』


 


 瞬間、感知野に不快なノイズが走り、私は顔をしかめた。


 同時に、ニコルの左手から不可視の波動が広がり、村人たちに降り注いだ。

 



「ほほう、【極大麻痺(マッシヴパラライズ)】か。最初はネズミ一匹も麻痺させられなかったのに上達したこと」

『あはは、ママの特訓のおかげだよ。そぉら、どんどん力が抜けていくぞ!』



 

 私が感心している間に、二十人ほどいた村人たちが次々とその場に崩れ落ちた。


 泡を吹いて痙攣を始めた村人は、ものの数秒で全員が完全に沈黙した。

 



 あっという間に一人になった異端審問官は、光の牢獄の中で顔を恐怖にひきつらせた。

 



『さぁ、どうする異端審問官。そこから剣でも振り回してみるか?』




 事実上のミゲルの勝利宣言に、真っ青な顔で、あ、とか、う、とか唸り声を上げる。


 そのさまを見たニコルがゲラゲラと笑うと、恥と怒りに塗れた異端審問官が唾を吐き散らしながらわめき声を上げた。




『お、おのれ、下賤な魔女の手下めが……! わっ、私を殺してもいい気になるな!』




 おっ、まだなにか反論するのか。随分と剛毅だな。


 私がコーヒーを啜りながらそんな事を考えていると、異端審問官は更に喚いた。




『たっ、たとえ私がここで八つ裂きにされようとも、恩寵あまねく東の聖女様が貴様ら魔女を地獄の果てまで追い詰めるぞ! かっ、か……! 覚悟しておくんだな!』

 

 

 


「面白かった」

「続きが気になる」

「もっと読ませろ」


そう思っていただけましたら

下の方から評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「たるろ」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ