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魔女集会に参加決定しました!!

 息子二人。その単語に、私だけでなく息子たちも驚いたようだった。

 



「え、僕らも――!?」



 

 ニコルが素っ頓狂な声を上げ、ミゲルも目を丸くしてカラスを見た。



 

「んな……何考えてんのよアンタたちは!」



 

 私は椅子から腰を浮かせた。



 

「どこの世界に人間同伴で魔女集会に来る魔女がいるのよ! ワケわかんないこと言わないで! だいたいアンタたちは――!」

『おっと、怒りなさんな。もう決まったことだ。それにそいつら二人は人間であり息子であり、お前の眷属でもある。眷属が魔女と一緒に魔女集会に出席するのはおかしなことじゃない。そうだろ?』



 

 ぐっ、と私は反論に詰まった。


 確かにそうだけど――できることならアイツらには他の魔女は会わせたくはない。


 何しろ魔女は人間とはあまりにも違う。彼らに余計な知識をつけさせたくはない。



 

「それにお前、東の聖女と()ろうってんだろ?」



 

 意外とも、予想通りとも言える一言が《荒の魔女》から発せられる。



 

「あのバケモノと戦うってんなら力が必要だぜ。いくらなんでもお前だけでその息子二人に必要なことを教え切れるはずがねぇ。そこに俺たち魔女の協力があれば――まぁ、曲がりなりにも殴り合いぐらいにはなるかも知れねぇよ。どうだ?」

 



 ちっ、と私は舌打ちしたい気持ちだった。


 こいつ、《荒の魔女》はその厳つい二つ名に似合わず、昔から口が巧い。


 しかもその指摘は確かに的を射ているとも言えるものだった。



 

 何しろ、魔女個人が持つ叡智の量はどんな魔導書にも収蔵できないほど莫大なものなのである。


 千年の時を生きる魔女は、長く生きれば生きるほど、その身体は生ける図書館のようになっていく。


 こいつら各魔女が蓄える知識を学ぶことができれば――ミゲルとニコルは今とは比べ物にならないほどに強くなるかもしれなかった。



 

 だが、本当にいいのか? 私は魔女としてではなく、母親として即答できなかった。


 息子たちは人間社会に帰っていく存在であり、魔女とこれ以上接触させれば、その記憶や経験は人間社会で生きていく上で必ず足かせになる。



 

 それに――私の他に四人いる魔女の叡智を彼らが吸収しきれるかどうか、何よりも一番それが不安なことだった。


 魔女と人間ではどうしたって生きる時間が違いすぎる。彼らの肉体や精神が魔女の荒療治に耐えられるかどうか――。

 

 

 

「わかった。僕は行くよ」

 

 

 

 ふと――力強いニコルの声が聞こえ、私はニコルを見た。


 ニコルはエプロンを外して畳みながら、《荒の魔女》を見た。



 

「ええと――《荒の魔女》さん。僕ら、ママと一緒に魔女集会についていきます。そこで僕らを鍛えてください」



 

 当然、私は大いに慌てなければならなかった。

 



「ちょ――ニコル、勝手に決めんな! アンタたちわかってんの!? 魔女集会に人間が出るなんて! それに魔女集会ってのはそう簡単に出られるわけじゃ――!」

「いえ、母様。俺もニコルと同じです。危険があったとしても魔女集会に出たい」

 



 ミゲルが帳簿を畳み、カウンターの脇に避け、眼鏡を押し上げた。

 

「東の聖女――いえ、あんなバケモノと戦うなら、必要な知識や力は手に入れたい。もうなりふりなど構ってはいられない。今の俺たちには力が必要です。あの巨大な魔法陣を見たときに、いくらなんでもわかりました」



 

 決然としたミゲルの言葉に、私は一瞬、浮かんできた反論を飲み込んでしまった。


 その隙につけ込むように、ニコルが再び口を開いた。



 

「ナミラが教えてくれたんだ。自分にできることがあるならやらなきゃって。怖がってちゃいけないんだって――」



 

 ニコルがぐっと握り拳を握り締めた。


 あの幼子をむざむざ死なせてしまったことが、彼の中でどれだけ大きな後悔になっているのだろう。

 

 ニコルは決意の目とともに顔を上げた。

 

 

 

「明日できることは今日しない、でもそれが今日やらなければならないことなら、何がなんでもやり通す――それが」

「それがアシュタヤ一家の家訓です、母様」

 

 

 

 流石は兄弟と言えるタイミングのよさで二人は宣言した。

 



 私は――というと、情けないことに、反論できなかった。


 そうだ、私はそうやって今まで教えてきた。


 明日できることは今日しない、だが今日やらなければならないことはやる。


 それを約束事として守らせてきたのは私だった。

 



 彼らが今日やるべきこと。


 それは――力を手に入れることなのだ。



 

『……へ。おい《樒》の。いい息子たちじゃねぇか』



 

 小馬鹿にしたような、けれども暖かさが滲む声で《荒の魔女》が言った。


 明確に息子二人の肩を持つその一言に、私は「……当たり前よ」と笑った。



 

「このバカ息子どもはね、世界中どこ探しても見つからない孝行息子なのよ」



 

 その言葉に、へへへへ、と息子二人は年齢相応の照れ笑いを浮かべた。


 できることなら今すぐ飛んでいって頬ずりしてやりたかったけど、今は来客中だ。


 私のそんなソワソワがわかったのか、《荒の魔女》はぱさりと羽を震わせた。

 



『さて、言うべきことは言ったから帰るとするか。《樒》の。集会は二日後だぜ、忘れるなよ』

「ええ。アンタこそ、他の魔女に言っときなさい。息子に手ぇ出したらぶち殺すって」

『おーおー、母親ってのは怖ぇな。それじゃ、久しぶりの同窓会を楽しみにしてるぜ』

 



 カラスがコート掛けから飛び立ち、店内に舞い上がった。


 そこで何かに気づいたニコルが窓に駆け寄り、窓を開け放った。



 

「ご退店はここからどうぞ。この店はちょっと結界みたいなものが張ってるから、消失魔法は使えないんだ」



 

 その言葉に、あん? とカラスが羽ばたきながら小首を傾げた。

 



「おいおい息子君、俺は魔女だぜ。窓からなんか帰らねぇよ」

「え――?」

「覚えとけ、魔女ってなァ神出鬼没なもんだ。どっからでも入れるしどっからでも帰れる。結界なんかじゃ俺たちは止められねぇよ。――よっと」



 

 その一声とともに、バシュン! という音が発し、カラスの姿がかき消えた。


 後には二、三枚の黒い羽だけが残され、ひらひらと床に落ちた。



 

「この店内でも消失魔法を使えるのか……やはり、魔女か」



 

 ミゲルが驚いたように呻き、ニコルは唖然として床に落ちた羽を見ている。


 私は組んでいた足をもとに戻し、椅子から立ち上がった。



 

「さぁ、アンタたち。魔女集会は二日後よ。それまでにちゃんと食ってちゃんと寝る! アンタたちの仕事はそれだけにしときなさい!」



 

 おう! と元気よく応じた息子たちに、私は少しだけ《荒の魔女》に感謝した。


 とにかく賑やかで、うるさくて、元気がある。


 アシュタヤ一家はこうでなければ。

 

 

 


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