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聖女の正体を教えました!!

 ふわり、と箒が砂埃を巻き上げながら地面に降りた。


 私は箒を収納魔法で仕舞いながら、村の入口に立った。

 



 村は――朽ちかけていた。


 そして、不気味に沈黙していた。


 風が吹き渡る音だけが耳に痛いぐらい、人の声も、子供の笑い声も、牛馬のいななく声さえも、全く聞こえなかった。



 

「ママ……この村、なんだか変だよ……」



 

 ニコルが小さな声で言った。


 彼にも、その異常なほどの静けさがわかったらしい。


 ミゲルも――その静寂に怯えたような表情で村の奥を睨んでいる。


「大丈夫、母ちゃんがついてる」と励ましながら、私は村に踏み入った。

 



 やはりというか――生物の反応はない。


 数年前まではそれなりに活気があったのに、家は歪み、田畑は半ば原野に還り、牛馬は一頭もいなくなっていた。



 

 私はその中の一軒に近寄ってみた。


 扉はなく、家の中には薄く埃が積もっている。


 火の気を忘れて久しいと思える竈には蜘蛛の巣が張り、長い間使われていないようだった。



 

 錆びた鍋の中に、私はあるものを見つけた。


 真っ黒に変色した、まるで石炭の欠片のようななにか。


 ひとつ、それを指で摘んでみると……殻を剥かれた木の実のようだった。


 煮ても焼いても、とても食えそうな代物ではなかった。

 



 家に併設されている馬小屋に行くと――猛烈な臭気が鼻を突いた。


 思わず手袋で鼻を覆うと、馬小屋の中に、真っ黒くハエが集った馬の死体があった。


 腹回りの肉がごっそりと失われているのはわかったが、それ以上正視に耐えるものではない。


 思わず顔を背けてその場を離れると、吐き気を我慢しているミゲルの青い顔があった。



 

「なんて酷い匂いだ……! アシュタヤ様……!」

「ええ。竈には火の気がない。畑にも作物が植えられてない。来年の種まで食べ尽くしたか」



 

 私は言葉少なに説明した。


 こんなうら寂しい山村のこと、不作や凶作には慣れっこだっただろうが――今回村を襲った飢饉は空前絶後の規模だったらしい。


 とても食べられない木の実を食べようとし、農耕にはなくてはならない牛馬までもを喰らって生き延びようとして――それでもダメだった。



 

 村人は、いや、それよりも――ナミラはどこにいる? 私はそれが気になった。


 村を見渡すと――ひょろりと高い、板葺きの尖塔が目に入った。



 

 聖女教会。どの村にも集落にも必ずある、村の中心。


 生き残っていた人々がいるとしたら――あそこしかない。


 私は覚悟を決めた。



 

「行くわよ、二人とも」

 



 私が歩き出すと、気後れしたように二人が私の後をついてきた。


 しばらく黙々と歩いてから……私は口を開いた。

 

 

 

「――聖女と呼ばれる存在が、どうして地上に遣わされると思う?」

 

 

 

 私の言葉に、二人は戸惑ったようだった。


 先に答えたのはミゲルだった。

 



「そりゃあ、人々を救済するためでしょう? その霊力で人々を癒やし、励まし、その……邪悪なるものを退ける。そのための聖女、そのための教会でしょう?」



 

 私は「半分、正解ね」と答えた。



 

「聖女は人々を救済する、それは間違いないわ。けれど、癒やすことも励ますこともない。できるかもしれないけど、少なくとも本人にはその気はない。あのアバズレ女は人々を救うだけ――それだけの人間なのよ」



 

 息子二人は、私の言うことの意味がわからなかったらしい。


 私は続けた。



 

「いい? 聖女教会が最大の罪として禁ずるもの――それは自殺よ」



 

 私はなるべく感情を悟らせないように、冷静な口調を心がけた。

 



「女神が創り出した命を己の手で消すこと――それは女神への最大の冒涜である。その選択をした人間は穢れ、地獄の業火で未来永劫()かれ続ける――それが聖女教会の言い分。奴らは人間の事情なんかこれっぱかりも考えない。かつてはその人のものでしかなかった命さえ、奴らは傲慢にも人間から奪って女神のものにしてしまった。人の生死は神が司る領域になり、女神しか操作してはいけないことになった――全く、馬鹿げた理屈だけどね」



 

 教会がすぐ近くに迫ってきた。


 教会の尖塔には、この世を創造したという女神を象ったブロンズの像があしらわれてある。


 慈愛に満ち満ちた微笑みを浮かべたその像を、私は暫く睨みつけた。



 

「けれど――人間が自分で自分の命を終わらせる事ができる、それは変わらない事実。生きていたくない、死んでしまいたい、人々がそう思わざるを得ない厳しい現実があることには変わりがない」



 

 私は教会の扉の前に立った。

 

 

 

「だから――女神はこの世に聖女を遣わした」

 

 

 

 えっ? と、息子たちが同時に声を上げた。


 何の意匠もない、分厚いだけの教会の扉が、私にはまるでそこに口を開けた地獄の門のように思えた。

 

 

 

「あのくそったれの女神は――わざわざ創ったんだ。人々を救済する、そのためだけの人間をね」

 

 

 

 私は扉の取っ手に手をかけた。

 

 

 

「人々の穢れた願いを一身に背負う人間を。死にたいと願う人間を救済するための人間を。いくら人を殺めても決して穢れることのない魂を持った人間を――創造主とやらは私たちの世界に降ろしたんだ」

 

 

 

「ま、待ってよママ! それじゃ、聖女ってまさか……!」

 

 

 

 ニコルが震える声で言った。


 私は覚悟を決め――一息に教会の扉を開け放った。



 

 途端に――死霊が吐いたとしか思えない、濃厚な死の匂いが私を圧倒した。

 

 

 

 人、人、人人人人人人――――――――――――――――。

 

 

 

 あるものは長椅子に腰掛けたまま。


 あるものは床に転がったまま。


 あるものは祈りを捧げるように手を組んだまま。



 

 ざっと三十人にもなろう人々が――すべて事切れていた。




「面白かった」

「続きが気になる」

「もっと読ませろ」


そう思っていただけましたら

下の方から評価をよろしくお願いいたします。

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