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息子二人と命拾いしました!!

 長い時間が、経過した気がした。


 私はキツく瞑った目を恐る恐る開ける気になった。

 



 もし目を開いた先に、二人の姿がなかったら――。


 そう思うと、目を開くだけの行為が果てしなく恐ろしいことのように思われた。



 

 だが、その私の懸念は――外れた。


 外れてくれた。


 目を開いたところに、ミゲルの銀髪と、ニコルの金髪の頭があり、彼らの体温と匂いがした。


 私は体を起こした。



 

「ミゲル、ニコル――!」

 



 私が揺すると、ぐ……! と二人が呻き声を上げた。

 



「なんだ……今のは……?」

「ママ……どうなったの……?」

 



 息子二人が、呆然と起き上がった。

 



 心に莫大な安堵が溢れた。


 私は思わず叱るような大声を出した。



 

「あ――あんたたち、大丈夫!? 怪我はない!?」

「う? ちょ、ちょっと待って……あ、大丈夫だ」

「俺もです。アシュタヤ様、一体何が……うわっ!?」

 



 私は息子二人を両腕で抱き寄せ、きつく抱き締めた。


 そうして、彼らを全身で感じて、彼らが生きているということを身体に直接教えた。


 教えないと、今すぐここでパニックになってしまいそうだった。



 

 ドッ、ドッ……と、胸から飛び出さんばかりの心臓の音がうるさかった。


 今の一瞬で呼吸の仕方すら忘れてしまい、横隔膜が痙攣し、酸素が上手く入っていかない。

 



 大丈夫、二人は生きている。


 そう理解した身体が再稼働を始めるまで――おそらく十秒近くもかかっただろうか。



 

「まっ、ママ……! どうしたの? 苦しいよ……!」

「アシュタヤ様、落ち着いてください! 俺たちは無事です、安心して!」



 

 ミゲルの言い聞かせるような言葉とともに、背中を擦られた。


 それでいくらかこわばりが解けて――私はようやく身体を離すことが出来た。



 

「本当に、無事、よね――?」

「無事です」

「う、うん。それよりママ、今のは一体……!?」

 



 ニコルの声に、私は無言で立ち上がった。

 



 立ち上がってから、気がついた。


 さっき、咄嗟に地面に投げ出したキノコの袋が――ふたつとも塵と化していた。


 今まで青々としていた木々も、私たちの数歩手前から抹茶色に枯れ果て――その木に集っていたのだろう虫たちが、ことごとく地面に落ちていた。



 

 たった数歩の距離で――私たちは命拾いしたらしい。

 

 私はふらふらと夢遊病患者のように数歩歩いて、少女――ナミラが消えていった山道の下の方に目を向けた。

 



 既に空にあった魔法陣は消えていた。


 そして、さっきまでその魔法陣があったはずの直下に――あの寂れた村があったことに、私はようやく気がついた。

 



 狙いは――あの村か。


 私たちを狙ったわけではなかったのか。


 あれが私たちを狙ったものだったら――間違いなく三人ともやられていた。


 その事実が空恐ろしくて、ごくり、と、私は唾を飲み込んだ。

 

 

 

「ママ! しっかりしてっ!」

 

 

 

 ニコルがパニックになったかのように私の背中をどついた。


 その衝撃と痛みに、はっ、と私はニコルの顔を見た。

 



 愛らしいとばかり思っていたニコルの顔が、今まで見たことのない、凛々しい青年の顔になっていた。


 声に焦燥を滲ませて、ニコルは私の肩をさすった。



 

「ママ、次の攻撃があるかもしれない! どうすればいい!? どうすれば防御できる!?」

 



 そうだ――攻撃が一回とは限らないかもしれない。


 完全にその事を失念していた私の代わりに、ニコルは指示を待つように私を揺すった。



 

「よくわかんないけど、今の魔法攻撃だよね!? しかもかなり大規模な! ママはどうやって防御したの!? 教えて!」

 



 ニコルの声に……私は首を振った。



 

「攻撃……もう来ないわ。たぶん」



 

 私は母親らしくない、しどろもどろの口調で言った。


 上手く呂律が回らなかった。

 



「アレは……今のは、私たちを狙ったものじゃない。標的は……麓の村よ」

 



 ニコルが息を呑み、私から視線を離して、遥か外界にある村を見た。


 ようやく、私の身体の方も落ち着いてきたらしくて、心臓の鼓動も徐々に治まりつつあった。

 



「村……? あんな小さな村を、何故……一体誰が?」

 



 ミゲルも立ち上がり、私の横に立った。


 私は口中の唾をかき集めて飲み下し、からからの喉を潤した。

 

 

 

「今のは――救済の光。聖女リスタリアの霊力で展開された、救済の魔法――」

 

 

 

 私の言葉に、目の前にあるニコルの顔が強張った。


 ミゲルも私を振り返り、まさか、という表情で私を見つめた。



 

 あの魔法陣が展開され、その魔法陣が所定の効果を発揮したなら――起こったことはひとつしかない。



 

 そう言えばナミラは――じきにお救いが来ると言っていた。


 私はその時、国王軍による炊き出しや施し、聖女教会による救援部隊だとばかり思っていたけれど。


 それが、全く違う意味の「救済」だったとしたら。



 

 まさか――私の腹の底が急激に冷えた。


 あの村は、あろうことか聖女リスタリアに「救済」を願い出たのか。



 

 村に何があったかはわからない。


 疫病か、飢饉か、諍いか、それともまた別の理由があるのか。


 そして聖女リスタリアは彼らの望み通り、彼らを「救済」した。


 その圧倒的な霊力と、冷酷なる心とで、彼らを――。

 



 私は、大きく息を吸った。


 そして、息子二人を見た。

 



「ミゲル、ニコル」

「は、はい!」

「何、ママ?」

 



 私は瞬時迷ってから、震える声で言った。

 



「素材採集は中止、麓の村に行くわ」

 



 うん、二人は頷いたけれど、私はまだ迷っていた。


 本当に、あの光景を二人に見せていいものだろうか。


 あの村が予想通りの末路をたどっていたなら――そこに展開されている光景はきっと地獄でしかない。

 



 彼らとは無縁でいてほしかった世界。


 かつて彼らが産み落とされた世界に彼らをまた戻してしまう。


 私は――つくづく母親失格だ。



 

「ごめん。母ちゃん、アンタたちに先に謝っとく」



 

 二人が顔を見合わせた。


 私は結局、正直に、そして包み隠さずに言った。

 

 

 

「正直に言って――村で起こることは、アンタたちにはかなりキツい経験になると思う。でも行かなきゃならないの。悪いけど――覚悟しておいて」

 

 

 


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