箒を召喚しました!!
途端に、ミゲルとニコルがぎょっと狼狽えた。
「ほっ、箒!? ママ――!」
「あ、アシュタヤ様! ほっ、箒を使うのですか――!?」
「あによアンタたちまで。昔はよく乗せて散歩してたじゃない、何ビビってんのよ」
「ま、ママ……! ノーラは初めて乗るんだよ!? 危険すぎる! 走っていこうよ!」
「絶対イヤ」
私は言下に否定した。
「これから治療で疲れるんだし。魔女が徒歩移動なんて間違ってるっての。第一これから徒歩で行って帰ってきたんじゃ食事時間がケツカッチンだし」
そう言って、私は右掌に魔力を込めた。
「――謹告。《樒の魔女》アシュタヤが命じる――出てこい、箒!」
途端に、バチッという雷鳴が迸るような音が発し、ブーン、と重いノイズと共に空間が歪む。
その空間の歪みは徐々に大きくなり――そして箒が、現れた。
ぐっ、と、息子二人の顔が緊張を孕んだ表情に強張った。
現れた箒を見て――ノーラは驚きに目を見開いた。
「こっ、これ――箒なんですか!?」
驚くのも無理はない。否、もっと驚いてもらわないと甲斐がないというものだ。
ピチピチの328歳の私には、そこらへんの魔装鍛冶が作る箒は古臭いし、スピードが出ない上、大体三人乗りには小さすぎる。
だから二人の息子を拾ってすぐ、当時の全財産の五分の三をつぎ込み、嫌がる魔装鍛冶を口説き落とし、半年かけて特別に作らせた一点物の箒がコレである。
ドラゴンの竜骨から削り出した禍々しくメタリックな、通常の三倍は長い柄。
房を取り払い、毒々しく輝く魔石をいくつも埋め込んだ流線型状の魔力増幅機構。
柄にぶら下げるランプの代わりに発光魔法システムを用いることで、夜間の視認性を格段に向上させた柄の先端のひとつ目。
どれもが時間と手間暇をかけ、入念に厳選し磨き上げた傑作。
それはまさに、「魔女だったら乗ってみな」と言える、唯一無二の傑作箒。
驚異的なスピードと異次元の機動性を両立させた――この世に唯一無二の超ハイスペック箒である。
ヴーン……と、魔力増幅装置の唸りが店内を震わせる。
腰の高さに浮いたままの箒を撫でながら、私は鼻高々に言った。
「人呼んで名物・フェアレディW――どう、ナウいでしょうが」
「ふ、フェアレディW――!」
ノーラはなんだかちょっと興奮したような面持ちで箒を眺め回した。
おっ、トロそうに見えて、ノーラは意外にもこういうメカメカしいモノがイケる口であるようだ。
反対に――なんどもこの箒に振り回された記憶のある息子二人はぐっと奥歯を噛み締めている。
「さ、アンタは道案内するんだから私より前に乗りなさい」
「はっ、はい! あ――でも、これ……どこにお尻を……?」
「何もじもじしてんのよ。乗る場所なんかないわよ」
「えっ?」
「しがみつくのよ、柄に。二本の腕と二本の足で」
「え――?」
目を点にさせたノーラを無視して、私は息子たちに言った。
「さぁ、アンタたちも早く。わかってると思うけど振り落とされないでよ」
私が言うと、ミゲルとニコルは覚悟を決めたような顔で箒の柄にしがみつき始めた。
しっかりと柄を掴み、両足を絡ませて、まるで木登りをするような格好である。
それを見ているノーラも、やがておっかなびっくりな動作で箒の柄に両手を絡ませ、まるでナマケモノが木にぶら下がるような格好で箒の柄を抱き締めた。
「もっと強く」
「は、はい――こうですか?」
「よろしい。いい? 絶対に手を離さないこと、ね?」
「は、はい! あ、でもやっぱり、あの――」
「バカ、口を閉じろ! でないと舌を噛んで死ぬぞ!!」
鋭く言ったのはミゲルだ。
ミゲルは色を失った唇でノーラに叫んだ。
「振り落とされたら絶対に怪我じゃ済まない! いいか、無事に到着することだけを念じて、ただただ死ぬ気でしがみつくんだ!!」
その鬼気迫る表情にこれから起こる事態を察したのか、ノーラの顔から迷いが消えた。
私は横座りに飛影に腰を下ろすと、短く命じた。
「翔けよ飛影、一日千里を渡ってその名の由来を示すがいい――」
ヴーン――! と魔力増幅装置が眠りから醒めたように唸りを強くし、店内がビリビリと鳴動した。
ガタガタ――! と店のドアが震え、固定されていないものがガチャガチャと耳障りな音を立てる。
その唸りが最高潮に達した瞬間――私はサッと右手の指を振り、店のドアを魔法で開け放った。
「イィィィィィヤッホォォォォォウ!!」
瞬間、ドン――! と背後で爆弾が爆発したような衝撃が体を揺らし、砲弾のような勢いで飛影が前進を始めた。
ぶわん! と空気がたわみ、暴力的に働いた慣性がすべての内臓を揺るがすこの瞬間が――私は大好きだった。
ああーッ! と、何やらノーラが悲鳴を上げたような気もしたが、そんなものは耳を聾する風切り音で聞こえなかった。
なんだか久しぶりにガッツリ読まれていて驚きです。
ヒューマンドラマジャンル、強くなりましたね……。
まさにこの作品にうってつけのタグだと思います。
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