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人間の子どもを拾いました!!

「やれやれ、魔女への供物とは時代遅れね……」

 

 

 

『私』は樫の木の根本に捨てられているそれを見た。


 雄牛の目玉、乙女の髪の毛、血のように赤い美酒。


 そして――五歳にも満たないと思われる、汚い人間の子ふたり。



 

 愚かな村の人間たちは数千年経っても魔女はそんなものを好むと思い込んでいる。


 『私』のような現代を生きる魔女にすれば、それら全てが血(なまぐさ)く、時代遅れのものでしかない。


 どうせなら一袋の金貨の方が、私にとってはよほどありがたいのだが。



 

 ふと――私は子供たちを見た。

 



「おや――」



 

 『私』は目を細めた。


 この子たちは――双子だ。


 しかもどちらも、天使のように愛らしい女の子だ。

 



「こっ、この子は美味しくないよ! こっちを先に食べて!」



 

 小さな身体で私を通せんぼし、既に泣き出してしまった妹を必死になってかばう姉。

 

 なるほど、と私は事情を察した。




 古来より人間の双子は畜生腹(ちくしょうばら)――つまり忌み子として嫌われる。


 この供物はそう見せかけているが私への捧げものではない。


 どうぞこの忌み子をどうにか処理してくださいという意味だ。


 身なりから言っても、身体のあちこちに浮かんだ痣を見ても。


 この双子の姉妹の生い立ちは決して幸せなものではなかったようだ。

 



「ちっ、人間の考えそうなことね……」

 



 私は人間という種族の卑しさ、傲慢さにほとほと呆れた。


 双子が畜生腹で縁起が悪いなどという話は無知蒙昧に由来する迷信でしかない。


 生まれる可能性があるなら最初から子を生さねばいいだけなのだ。



 

 しかし、反面私は少し喜んでもいる。


 なぜなら、人間のメスは魔法的な才能に秀でるからだ。


 魔法的な才能に秀でるということはつまり、魔女の眷属(けんぞく)になり得るということだ。

 



 もうかれこれ五十年ほど、私には眷属がいない。


 先代の眷属であった黒猫は優秀で、気まぐれで、強くて、そして愛らしかった。


 彼女らなら猫よりは長生きしてくれるだろう――そんな風に思っている自分が、どこかにいた。



 

「おいお前たち、生きたいか?」

 



 私は姉の方に手を差し出した。


 その行動に、姉は大層驚いた様子で目を瞠り、私と差し出された手を交互に見た。

 



「食べるんじゃ――ないの?」

「食べるかどうかはこれから決める。だが、お前たちが生きたいというなら考えてやる。どうだ、私の眷属になり、一生を私に捧げるというなら――私が責任持ってお前らを生かしてやる」



 

 私は微笑みとともに双子の姉妹を見た。


 姉はまだ悩んでいる様子だった。

 



 ――と、そのとき。


 今までずっと泣いていた妹が姉の身体から這い出し、私の手を掴んだ。

 

 

 

「生きたい――生きたい!」

 

 

 

 強い、透き通った声だった。


 おお、このメスは見かけによらず勇気がある。


 それに、何よりも生への執着が強い。


 これならば多少乱雑に扱ったところでへたれたり壊れたりしないだろう。




 ニヤ、と私は、これぞ魔女の笑み、と言える顔で微笑んだ。

 



「よろしい――契約成立だ」

 



 私は立ち上がり、双子の頭を撫でながら言った。

 

 

 

「覚えておけ。今日からお前たちの母親はこの《(しきみ)の魔女》、アシュタヤだ――」

 

 

 

 人間に頭を撫でられた経験などなかったのだろう。


 双子の姉妹は困惑したような表情で私の顔を見上げる。




 その夜、私はそうして、人間の双子を拾った。

 

 

 

 それは十七年前、満月の美しい夜のことだった。

 

 

 

これは諸事情によりボツらねばならなかった作品なのですが

個人的に忘れがたい作品である上に

今読み返したら9万字近くもストックがあったため

尽きるまで投稿してみたいと思います。



よろしくお願いいたします。

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