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かりそめの妻でよかったはず、なのに  作者: しきみ彰


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後日談② 秋の自宅でピクニックデート

 忙しない日々を送りながらも、シエナたちは結婚式の準備を着々と進めていた。


 と言っても、呼ぶのは身内だけだ。また、屋敷の庭に祭壇を設置し牧師を呼ぶ形式にしたのは、大々的にしたくないというのはあるが、これ以上好奇の目に晒されるのは嫌だったからというのが一番の理由だ。


 その間にも、イライアスは次期当主教育だけじゃなく政界にも顔を出すことが増え、シエナも屋敷の女主人として様々なことを教わりながら日々過ごしていたのだが。


「……シエナともっと一緒にいたい……」

「イライアス……」


 忙しすぎるあまり会えないことが増え、イライアスがこんなふうにしょぼくれてしまった。

 そんな彼を、シエナが宥める。


「明日は時間が取れるじゃない、私もスケジュールを空けたから、一緒に過ごしましょ?」

「一緒にいる……いるけど……! 外出できないじゃないか……!」

「それは……ねえ……?」


(秋頃から、あんな新聞連載が始まったんだから、仕方ないわね……)


『あんな新聞連載』というのは、王太子・マクスフィンが自身の勢力の安定を図るため、そしてキャンベル伯爵をさらに衰退させ、息の根を止めるために行なった、シエナとイライアスをモデルにした恋愛小説の連載のことだった。

 ヴィヴィアンヌの不評は国民の間でも有名で、その上貴族たちにも共感及び支持されたこともあり、新聞連載の売り上げは鰻登り。ついでに言うなら、悲劇のカップルを助けたのが王太子をモデルにしたキャラだったこともあり、マクスフィンの支持率は爆上がりした。


 もちろん、シエナたちも同意の上で始めた連載だったのだが、それは予想外の広まりを見せ――結果、モデルとなった二人を一目見ようとする人々が、二人の周りをうろつくようになったのだ。


 それもあり、外でデートなんてもってのほか。今のところ、王太子が私兵を貸し出してくれたから屋敷の中ならなんとかなっているが、手を貸してくれるのが遅くなっていたら侵入者が出ていたかもしれないレベルの惨状だった。


(私たちも、自分の立場を確立させるため、そしてキャンベル伯爵を追い詰めるためにも許可したのだけれど……ここまで盛り上がるとは思わなかったわ)


 怪我の功名とでも言えばいいのだろうか。それとも、それほどまでにキャンベル伯爵の評判が悪かったということだろうか。

 元々、貴族のスキャンダルというのは娯楽として扱われることが多く、貴族のみならず国民全てに人気ではあったが、横暴極まりない公爵家の没落はそれくらい、国民の心を掴んでしまったらしい。

 おそらく、しばらくはこのままだろう。


 けれどイライアスとしては、シエナとデートに行けなくなってしまい、想像以上に落ち込んでいた。


(そんなに気にしなくていいのに……)


 ヴィヴィアンヌの件が片付いてからというもの、イライアスが何かとシエナのために尽くしてくれていることは知っている。それは、本来夫婦になってから培うべきだったものを取り返したい一心からくる行動なのだろう。罪滅ぼしの一面もあるかもしれない。

 しかし、シエナは元から外出はあまり得意ではないし、すでに忙しいイライアスの負担になることはあまりしたくなかった。

 何より、彼がシエナのために何かしてくれようとしている時点で嬉しいので、そんなに落ち込まないで欲しいのだが。


 うーんと、シエナは考えた。


「じゃあ……こういうのはどう? 明日、一緒に庭でピクニックをするの」

「……ピクニック?」

「ええ、せっかくいいお天気なんですもの。そして、私はお菓子を、イライアスはランチを作るの。それを一緒に食べるのはどうかしら?」


 イライアスはたじろいだ。


「けど、俺、料理なんて作ったことないし……」

「お屋敷のシェフに頼めば、手伝ってくれるはずだわ」

「う……」

「私、イライアスの作ったランチ、食べてみたいな〜」

「…………」

「それに、ほら。イライアスが好きなチョコレートケーキだけじゃなく、アップルパイやマロンタルトも作るわ。……どうかしら?」


 首を傾げながらそろりとイライアスの様子を見れば、彼はぐぬぬ、と唇を引き結び、それから渋々頷く。


「……分かった! シエナが言うなら……!」

「よかった」


 この方法なら、シエナのために何かしたい、というイライアスの要望にも沿うだろう、と思ったのだ。

 何より、彼がどんなものを作ってくれるのか気になる。


(彼のためにキッチンは空けておきたいし、朝食後に本邸のキッチンを使わせてもらえるよう、頼んでおきましょう)


 なんて考えながら。

 シエナは半ばそわそわしながら、翌日のランチの時間を楽しみに過ごしたのだった。



 *



 翌日は、少し雲が多かったが、雨の心配がないくらいには晴れていた。


「…………」

「…………」

「……っふ……」


 そんな中、庭の一角に布を敷き、二人の作ったランチが並べられている。

 それを見たシエナは、思わず肩を震わせた。

 笑うのをこらえた彼女を見て、イライアスは目を逸らしながら声を絞り出す。


「……なんだよ、笑いたければ笑えばいいじゃないか……」

「いや……だって……」

(まさかイライアスが、こんなにもお料理ができないなんて思わなかったんだもの……)


 おそらく簡単な料理を、ということでサンドイッチを作ったようなのだが、断面は斜めっているし、挟まっているベーコンが焦げていたり、スクランブルエッグが飛び出たりしている。かなり四苦八苦しながら作ったことがありありと分かった。


 本人も、かなり出来が悪いことは理解していたらしい。最初こそ拗ねていたが、しょんぼりと落ち込み始める。

 それを見たシエナは、自身の胸がキュンとときめくのを感じた。


(どうしましょう、お姉様にワンコって形容された日から、イライアスのことがだんだん本当に犬のように見えてきちゃった……)


 しかしこれ以上シエナが笑うと、イライアスはどん底まで落ち込んでしまうだろう。それもあり、顔が緩みそうになるのを必死にこらえていると、彼がか細い声でつぶやいた。


「……やっぱり、作り直して……」

(まずい……!)


 瞬時にイライアスの状況を判断したシエナは、サンドイッチを一つ手に取ると、がぶりと頬張った。

 もぐもぐ、と咀嚼した彼女は、うんうんと頷く。


「見た目は悪いかもしれないけれど、味はきちんと美味しいわよ」

「ほ、本当か……?」

「ええ。ほら、あーん」


 シエナがサンドイッチを差し出せば、一瞬たじろいだイライアスが目をギュッとつむり、勢い良くかぶりつく。

 彼女と同じようにゆっくりと味わっていたイライアスは、「確かに……」と頷いた。

 シエナはふふ、と笑う。


「それに、イライアスが頑張って作ってくれたってだけで、私は嬉しいわ」

「……けど、君の前ではいつも格好がつかないじゃないか……もっとちゃんとしたいのに」


 シエナは、目をぱちぱちと瞬かせる。


「そう? 私にとってのイライアスはいつだって、格好良くて可愛いわよ?」

「可愛いって……」

「女の人にとっての可愛いは、愛おしいと一緒なの。格好良いは格好悪いに変わるかもしれないけど、愛おしさは変わらないままなのよ?」


 実際、どんなに格好悪くても、それがシエナのことを想ってしてくれたことなのであれば、彼女はイライアスを愛おしく感じるだろう。

 シエナがそう微笑むと、本気で言っているのが伝わったらしい。幾分か機嫌が戻る。それを見て、彼女は内心胸を撫で下ろした。


(よかったわ。だって私が言い出したことだったから……)


 だから少なからず、罪悪感を感じていたのだ。


(けど、私に振る舞うために四苦八苦しながらサンドイッチを作ってくれたイライアスを想像すると……やっぱりかわいい……)


 なんて思いながら、シエナが「はい、イライアスの好きなチョコレートケーキ」とケーキが乗った皿を渡すと、彼はちらりとこちらを様子見した後、口を開ける。


「シエナに食べさせて欲しいな〜」

「…………」

「……ダメかな?」

(……もう。格好良くする気なんてないじゃない)


 なんてくすくす笑いながら。


「ダメなんかじゃないわよ、私の愛おしい旦那様」


 そう言い、シエナはフォークで一口サイズに切ったケーキを、そっと差し出したのだった。


 ――そんな、とても平和で幸福な、二人の日常。

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