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全てが終わった後、シエナとイライアスは揃ってセレスティアの墓参りに向かっていた。
喪服に身を包み、馬車に揺られながら、シエナは苦笑する。
「セレスティアに報告しに行くのがこんなにも遅くなっちゃうなんて、思わなかったわね、イライアス」
「本当にな……だいたい全部殿下のせいだが」
そう。キャンベル公爵家が降爵し、キャンベル伯爵家に変わったのを機に、なんとマクスフィン王太子がイライアスを自身の側近に加えたのだ。
国に尽くしてくれたことへの褒賞だそうだ。たんまりと贈り物まで届いたときは、シエナも開いた口が塞がらなかった。
(そりゃ、不憫な過去があるとはいえ、欠陥があると思われていたイライアスにとってはいいことなんでしょうけど……複雑だわ)
シエナもイライアスも、平和主義だ。だからその平和な生活を守れるのであれば、争いなどあまりしたくないのだが。王太子側の人間だと社交界に表明したも同然なので、これから色々なことに巻き込まれるだろう。
「当主教育もまだ済んでいないのに、そんな負担になること……大丈夫なの?」
シエナが思わず口にすると、イライアスは苦笑した。
「実を言うと、半ば狙ってはいたんだ」
「え?」
「だって、王太子殿下とお近づきになった上で、実力を示せるチャンスだぞ? そんなの、滅多にないだろ」
「そうだけれど……イライアス、出世欲とかあった?」
「いや、ない。けど」
イライアスは、シエナを見た。
「……俺、セレスティアの件で、そしてキャンベル元公爵令嬢の件で学んだんだ。権力は持ちすぎても毒だけど、なさすぎると大切な人を守ることすらできないって」
「イライアス……」
シエナにも覚えがある。たとえば、ヴィヴィアンヌと敵対したとしても、彼女に反省させることも、大きな打撃を与えることもできなかったことだ。それはシエナが積極的ではなかったのもあるが、キャンベル公爵家の力があまりにも強大だったことでもある。
「地位があれば、ある程度の悪評なんて実力で蹴散らせたはず。けど当時の俺にはそんなものなく、そして精神も未熟でシエナにばかり負担をかけた。だから、変わりたいと思ったんだ」
「そんな……負担だって思ったこと、なかったわ」
「本当に? ちょびっとも?」
「そりゃ、もちろん大変だったけど。……あなたまで喪うよりかは、私にとっては楽だったのよ」
シエナが目を伏せながら微笑むと、イライアスも同じように微かな笑みを浮かべた。
「じゃあ、お揃いだな。俺も同じだ。それでシエナを守れるなら、なんだってやるさ」
シエナは、何か言おうと口を開いた。しかしちょうどそのタイミングで、馬車が止まる。言葉を飲み込んだ彼女に、イライアスは笑いながら手を差し伸べた。
「続きは、セレスティアの墓石の前でしようか」
「……ええ」
花束を片手に持ち、イライアスの手を取って歩きながら、シエナは思っていた。
(――今日、私は、答えを出す)
イライアスもそれはなんとなく分かっているだろう。だからこそ、彼は何も言わないのだ。
シエナが献身してくれた分、自分も待つつもりでいるのだろう。だから多分、ここで答えを出せなかったとしても、彼は咎めないと思う。
(けど、私は今日答えを出したい……だって人の生は、有限なんですもの)
――思い返してみれば、様々なことがあった人生だった。
セレスティアとイライアスとの出会いで世界が色づき、二人の婚約が決まって自身の恋心の終わりを知った。
同時に、一度ついた火を消すことはできずに燻り続け、それはセレスティアの死とイライアスの怪我で呪いに変わった。
そしてイライアスからの告白と、私怨同然の復讐を経て、呪いは一時的におさまった。
何より、ヴィヴィアンヌの件が正解だとも思っていない。しかしあれが、シエナたちにとって一番の復讐だった。恋に生きた彼女にとって、それが敗れるだけでなく恋を抱く希望さえなくなる環境に放り込まれることは、この世の終わりと同じだろうから。
だから、何かが自分の中で終わった気はするけれど、すっきりした感じはしなかった。
それもそのはず。シエナが求めているのはセレスティアだ。復讐したって、生き返ったりはしない。
そして、セレスティアに対しての罪悪感が消えることも、多分ないのだろう。
(今私の中にある感情を、愛や恋だと名付けていいのか分からない)
そう思っていたとき、セレスティアの墓石の前にきていた。
クルーニー伯爵家の庭から持ってきた夏の薔薇を添えてから、シエナはそっとあるものを取り出す。
それは、昔約束していた花嫁のヴェールだった。
「……贈るの、遅くなっちゃってごめんね、セレスティア」
セレスティアの死でそのままになっていたものだ。イライアスと療養をしていたときも放置されていたため、今回改めて続きに手をつけたのだが、久しぶりすぎて途中から明らかに質が悪くなっている。しかしシエナなりに心を込めて作ったものだった。
それを墓石にかけてやると、胸がきゅっと引き絞られるのを感じる。
「綺麗だな、シエナ」
「……ええ、綺麗、ね。イライア、ス……っ」
涙がこぼれそうになり、シエナは空を見た。
この抜けるような夏の青空の下、頭を空っぽにしてこれからのことを考えたとき、ふと思い浮かんだのはセレスティアの顔だった。
『ねえ、シエナ。あなたはどの選択を選んだら、幸せ?』
『わたしは、シエナにもイライアスにも幸せになって欲しいな! だって二人とも、大好きだから!』
シエナは、イライアスを見た。
「……ねえ、イライアス」
「なんだ? シエナ」
「――やっぱり私は、イライアスといたい」




