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かりそめの妻でよかったはず、なのに  作者: しきみ彰


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 *


 ――話は、その日の朝まで遡る。


 ヴィヴィアンヌ・キャンベルは、退屈な日常を過ごしていた。

 というのも、父親に命じられたせいで、しばらくの間どこにも外出できなくなってしまったからだ。


 しかも父に「いつになったら外に出てもいいのか」と聞いても、帰ってくるのは「王太子との婚姻が決まってから」と言うばかり。


(そもそも、わたくしは王太子なんかと結婚したくないと言っているのに!)


 ヴィヴィアンヌは、イライアスがいいのだ。

 そして彼女の中に残っていた恋心に再び火がついたのは、社交の場に出てもシエナ単独での参加が多かった点である。


(シエナと不仲だというのなら、離婚すればいいだけのこと! そしたら彼の妻の座に相応しいのは、わたくししかいないもの!)


 しかし父は、聞く耳を持たない。

 それどころか、国王にのらりくらりとあの手この手で躱され、王太子との婚姻話がなかなか進まないせいでイライラしている上に、根回しのために様々なことをしているらしく、屋敷にいないこともしばしばだ。


「一体、いつになったら外に出られるんですのッッ!?!!?」


 ヴィヴィアンヌは、力任せにベッドのクッションを殴り続ける。すると、中の羽毛がぶわっと飛び出してきた。顔に張り付いたそれが、さらに彼女を苛立たせる。


 ヴィヴィアンヌは、力任せに呼び鈴の紐を引いた。

 そしてやってきた使用人に「さっさとこれを片付けて!」と叫び、自身は庭へ向かった。多少気が紛れるのではないかと思ったからだ。


 すると、とある使用人が恐る恐る話しかけてくる。


「そ、その、お嬢様。少しお話しよろしいでしょうか……?」

「……何よ」


 ただでさえイライラしているのに、まさか使用人にまで邪魔されるなんて。

 そう思い、つま先で地面を叩きながら要件を促すと、彼女は頭を下げながら一通の手紙を差し出してくる。


「そ、その、ご気分がすぐれないところ、申し訳ございません! ですがお嬢様に、こちらをお渡ししないとと思いまして……!」

「……何これ? 夜会の招待状?」

「は、はい。旦那様からは止められていたのですが……お嬢様の想い人である、クルーニー小伯爵様もご夫婦でご参加される、とのことでしたので、こっそり持って参りました」

「……イライアスがっ?」


 ヴィヴィアンヌは手紙をひったくった。

 すると、使用人は矢継ぎ早に言う。


「そ、その! 旦那様はひどいと思うんです! お嬢様がこんなにもクルーニー小伯爵様に恋焦がれているというのに、その仲を引き裂こうとなさるなんて……!」

(……へえ? 使用人の癖に、わたくしのことをよく理解しているようね)


 イライラすることばかりだったということもあり、久しぶりに気分のいいことを聞けたヴィヴィアンヌは、にやりと笑った。


「確かに、お父様はひどいわ。わたくしは王太子なんかと結婚したくないというのに」

「おっしゃる通りです! それに、こんなにも長い間閉じ込めるなんて……お嬢様だって退屈されているでしょう?」

「そうね、退屈ですわ。……そう言うからにはあなた、わたくしに協力してくれるということかしら?」

「はい。お嬢様がご所望されるのでしたら、あたしがすべての手筈を整えます」

「ふぅん? お父様にはバレないんでしょうね?」

「もちろんです! 実を言いますと、お嬢様の恋を密かに応援している使用人は、多いんですよ」

「へえ……」


 いいことを聞いた、とヴィヴィアンヌはほくそ笑んだ。


(使用人たちが手助けをしてくれるなら、外に出るのも問題なさそうだわ。それにお父様も、帰ってくる気配すらないし……)


 まさしく、隠れてイライアスと会うのに絶好のチャンスだ。


(戻ってきたイライアスと会うのは、今回が初めてだわ!)


 それだけで、ヴィヴィアンヌは浮かれた。

 同時にハッと気づく。


(夜会の準備には時間がかかるんだから、今すぐにでも取り掛からなくてはなりませんわ!)


 ボディケアやヘアケア、そして化粧、ドレスや宝飾品選び……やることは山のようにある。


(夜会に参加するつもりなんてなかったから、手持ちしかないのが悔しいけど……そんなこと言っていられませんわ!)


 だって、この機会を逃したら、イライアスと会うことなんてできないだろう。

 ヴィヴィアンヌは踵を返した。


「夜会の準備をするわ!!」

「ご準備をお手伝いさせていただきます、お嬢様」

「あらあなた、気が利くじゃない! ならわたくしに合うドレスを選びなさい!」

「かしこまりました」

「この件が上手くいったら、わたくしの専属メイドにして差し上げてもよろしくてよ?」

「本当ですか、お嬢様! でしたらあたし、誠心誠意努めさせていただきますね!」


 こうしてヴィヴィアンヌは、従順な使用人たちの手を借りて、久しぶりの外出に繰り出すことになったのだ。

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