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かりそめの妻でよかったはず、なのに  作者: しきみ彰


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 その日の夜。

 フラメル伯爵家が用意した隠れ家に集まったのは、シエナ、イライアス、アデライン、王太子、そしてアデラインの夫であるゼノンの、計五人だった。


 挨拶もそこそこに、五人のうちの一人――王太子・マクスフィンが、口を開いた。


「さて、フラメル伯爵からそなたたちの話は聞いた。キャンベル公爵令嬢との婚姻を白紙にし、さらにはキャンベル公爵にも打撃を負わせるために我々の助けになりたい、とのことだったが……この言葉は本当か?」

『はい、王太子殿下』


 シエナとイライアスが声を揃えて言うのを聞いたマクスフィンは、改めてシエナとイライアスを見た。


「……そなたたちの事情はそれとなく伝え聞いている。その上で、問おう。――そなたたちに、今回の事態をこなせるだけの決意と覚悟はあるのか?」


 厳しい意見だが、王太子が言うことは尤もだ。というのも二人は、きちんと社交の場に出る前に療養と称して王都を離れている。地方から出てこない貴族もいるとはいえ、今の二人が明らかに足手纏いだと思われても仕方がない。社交界というのはそれくらい、目に見えぬ悪意がひしめき合う場所なのだから。

 その上、イライアスが体調を崩した件に関しては、王太子もある程度事情も察していよう。

 つまりマクスフィンは、覚悟はおろか、それすら分からない者たちと協力する気はない、と言っているのだ。


 しかしそれに対して、イライアスは笑う。シエナも同じ気持ちだった。


「ご忠告、痛み入ります、王太子殿下。ですが今回極秘の会談にいらしたのは、殿下が私の助けを必要としていたからではありませんか?」

「……何?」

「もし見当違いのことを申し上げていたのであれば、謝罪いたします。しかし聡明であられる殿下が今宵、力不足である私どもの誘いに乗ってくれたという時点で、我々の利害は一致しているのかと思いましたが……違いますでしょうか?」


 そう言うと、王太子は渋い顔をした。そして降参、とでも言うように両手を挙げた。


「……はあ、その通りだ。キャンベル公爵令嬢はともかく、キャンベル公爵がなかなかの食わせ者でな。疑惑こそあれど、その証拠を掴めずにいたのだ」


 するとゼノンが、眼鏡をくいっと持ち上げながら頷く。


「ですので我々も、クルーニー小伯爵が王都に戻ってきたという話を聞いた際は、協力を求めようかと思っていたのです。キャンベル公爵令嬢が、クルーニー小伯爵にぞっこんだという話は、社交界で知らない人がいないほど有名な話ですからね。ただ療養をしていたという点も踏まえて、様子を見ていたところだったのですよ」

「よくもまあ抜け抜けと……様子を見たほうがいいなどと言ったのは、そなたの方だろう。私は自分が当事者ゆえに、一分一秒でも早くクルーニー小伯爵からの協力を得たいと思っていたというのに」

「殿下、『急いては事を仕損じる』という言葉がございます。為政者たる者、時を見極めることも重要でございますよ」


 どうやら、すぐにでもイライアスの力を借りたかった王太子を止めたのは、ゼノンだったようだ。義妹とその夫にも容赦がないあたり、さすが義兄といったところだろう。こういったときに公私を分けるところを、シエナはとても尊敬している。


(まあ、お姉様が絡むと、それも崩れるのだけれど……)


 それにしても、この二人がまさかこんな主従関係だったとは知らなかったが、いいコンビだとシエナは思う。この二人がこのまま国王と宰相になれば、この国も安泰だろう。


(けど、キャンベル公爵令嬢が王太子妃に選ばれた時点で、それも潰えてしまう……)


 というのも、アデラインのことが嫌いなヴィヴィアンヌがゼノンを王太子の側近で居続けさせるわけがないし、公爵のほうもこういった忠臣の存在を認めようとはしないだろう。

 やはり国の未来のためにも、そして報復のためにも。ヴィヴィアンヌとキャンベル公爵をこのまま野放しにしておくわけにはいかない。


 シエナはマクスフィンを見た。


「それでは殿下、我々は殿下とフラメル伯爵のお眼鏡にかなった、ということでいいのでしょうか?」

「こほん。まあ、そういうことになるな。むしろ、私としては願ったり叶ったりだ。あんな女との結婚など、ごめん被る……」


 シエナは、少なからずマクスフィンに同情した。当事者であるだけに、どうにかして阻止しようとしたことが伺える。

 その事を労いつつも、シエナは話を進めた。


「聞いた感じですと、既にフラメル伯爵の中で良い作戦があるようですが、我々に共有していただいても構いませんか?」

「もちろんだ。ゼノン、お前も良いだろう?」

「もちろんです」


 そうしてゼノンから軽く話を聞いたところ、分かったのはこうだ。


 一つ目、キャンベル公爵には、脱税の疑いがあること。

 二つ目、疑いがありつつも、肝心の帳簿といった証拠品がキャンベル公爵の書斎にあり、しかもいつも鍵が厳重にかけられているため、簡単に出入りできないこと。


「目下の問題はこの辺りでしょう」

「ええ。そしてキャンベル公爵令嬢は、王太子との婚姻が決まるまで屋敷に閉じ込められているみたいよ。まああのじゃじゃ馬にとって、そんなものどうということはないでしょうけれど」


 辛辣な姉の意見に苦笑しつつ、シエナはイライアスを見た。そして目配せする。

 この目配せは、イライアスと事前に話し合っていた通りの流れで問題なさそうだと思ったからだ。

 すると、心得たと言わんばかりに頷いたイライアスが口を開く。


「鍵はやはり、キャンベル公爵令嬢にあるかと思います。彼女を利用して、公爵の書斎を探させるのが良いかと」

「そう言うが、具体的にはどうするのだ?」


 マクスフィンからの問いかけに、イライアスは微笑んだ。


「簡単です。私とシエナが夜会に参加すれば、キャンベル公爵令嬢は自ずと出てきます」


 シエナも頷く。


「同時に、私がキャンベル公爵令嬢がより短絡的な行動を起こすように煽るのです」

「その上で、私が彼女の意味ありげな行動を起こし、使用人を通じて手紙を渡せば、彼女は喜んで協力してくれるでしょう」


 何をしようとしているのか分かったゼノンはなるほどと頷いた。


「確かにそれは有効ですね。採用しましょう」

「ありがとうございます、フラメル伯爵」


 さすが、一を聞けば十を知れるタイプだ。細かい内容までなんとなく察してくれたらしい。なんだかんだと似た者夫婦だと、シエナは思う。

 それからシエナは、マクスフィンを見た。


「殿下、その上で大変厚かましいのですが、お願いがございます」

「なんだ」

「キャンベル公爵令嬢の処遇を、我々に決めさせて欲しいのです」


 それを聞いたマクスフィンは、片眉を上げたもののどういう理由なのか詳しくは聞かなかった。代わりに、


「……何をするつもりだ?」


 とだけ聞いてくる。

 シエナは微笑んだ。


「ご安心を、決して罪を犯すわけではありませんので。ですが彼女にとって、そして女性にとっては、何よりも大きな罰となることです」

「……というと?」

「お姉様から、王太子殿下の婚約者候補を伺った際に思いついたのです――」


 そう切り出し、シエナが詳しい内容を語ると、マクスフィンは瞠目しながらも「その方針ならば、私も否とは言えぬな」と頷き、ゼノンは「なかなかの有効活用ですね」などと感心し、アデラインは「確かに彼女にとっては、きっと死ぬよりもつらいことでしょうね」と鼻で笑った。

 三者三様の反応であったが、共通しているのはシエナが話したヴィヴィアンヌに対しての処遇に肯定的、という点である。


 そしてシエナとイライアスには、それだけで十分だった。


「一応国王陛下にも相談して判断を仰ぐが、そなたたちが求めるキャンベル公爵令嬢の処遇に異を唱えることはないだろう。公爵の勢いも削ぐことができる上に、災いの種を他所へ放り投げられるのだからな。確定し次第、ゼノン経由でそなたたちに連絡しよう」

『寛大なご対応に、心よりの感謝を、王太子殿下』


 イライアスと声を揃えて頭を下げるシエナ。

 それから基本的な作戦内容は、ゼノンかアデラインを通して話すと言われ、二人は先んじて隠れ家を後にする。





 ――クルーニー小伯爵夫妻がいなくなった後、マクスフィンは神妙な顔をして口を開いた。


「正直なところ、クルーニー小伯爵夫妻は、あまり社交界に向いていないと思っていたのだが……私の勘違いだったようだな」


 それを受けたゼノンは、肩をすくめる。


「本人たちが温厚で根っからの善人ゆえに、社交界の泥沼をあまり好ましく思っていない、というだけです。それ相応の理由があれば、あの二人は上手く世渡りしていけるタイプだと思いますよ」

「そうね」


 アデラインも頷いた。

 そして言葉を続ける。


「まあ一番どうしようもないのは、そんな温厚な二人にあそこまでの対応をさせた、キャンベル公爵令嬢だと思いますけれどね」


 男二人は静かに頷いた。

 そして、各々帰路に着くために、時間差で隠れ家を後にしたのだ。

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