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覚醒

「⋯⋯⋯⋯ん?」


 それは、突然のこと。日課のように金属バットを持って背後から近づいた時だった。


 ──何か、ある?


 アイツは、透明なナニカを纏っていた。深く考えることなく振りかぶったバットを思い切り振り下ろすと、そのナニカの一部がクッションのように形状を変えて、バットを殴打を受け止める。そして、それに全体を包み込まれたバットは、そのまま音もなくへし折られた。それは俺の体を包むことはなく、落としたバットに纏わりついたままで、バットがただの鉄塊に成り果てるまで収縮してから、またアイツの体を包む透明な膜の中へゆっくりと戻っていった。


「お前⋯⋯それ、なんだ⋯⋯?」


 気付くと、俺は疑問を口にして発していた。あまりに突然の出来事に理解が追いついていなかったからだ。

 その言葉に姫華は勢いよく振り向いた、その瞳を燦々と輝かせて。そして食い入るように俺の両肩を掴む。


「えっ? えっ!? もしかして『視える』の!? お兄ちゃん!?」


「触るなっ⋯⋯! 」


「ぁん⋯⋯」


 鼻と鼻が触れ合う距離まで目を見開いた顔が迫っていることに気付くと、肩に乗っている手を振り払って後ろへ下がって距離を取る。姫華は追ってくることはなく切なげな声を上げ、そして自らの身を掻き抱く。


「そっかそっかお兄ちゃんは視えるようになったんだ他の誰も視えてなんかいなかったのにううんそうだお兄ちゃんだからだお兄ちゃんだからそうなったんだきっとそう間違いなくそうこれは愛?愛の力?そうよそうに決まってるそうじゃなくちゃおかしいやっぱりお兄ちゃんと私は両想いなんだだからこんな風になったんだ偶然じゃなく必然ううん運命といってもいいやったやったやったやったえ、じゃあどうしようシてもいいかな今までそれはダメだと思ってたけどお互い想いあってるならいいよねむしろ両想いならシない方がおかしくない?いや、そうだよ子供は何人欲しいかな野球チーム作りたいかな私たちの子供同士で試合させちゃう?ヒメカ&ユウタリーグ開催しちゃう?いきなり決勝戦!白熱の試合!やだもうそんなに求められちゃうの私ああもう今日の夜襲うか違う襲うんじゃなくて愛し──」


「おい」


 息を荒くしてその目を潤ませぶつぶつと何かを呟いて自分の世界に入っていく姿に声を掛ける。その声に漸く俺の方へと視線を戻すが、それでもまだ湿った泥を瞳の中に内包していた。


「え? サッカーチーム作りたいの? やだもうだってサッカーだったら二じゅ──」


「おい!」


 今度は強めに圧をかけた。漸くその瞳に光が宿り始め、一瞬不満そうに唇を尖せたが、やがて先程までとは違い嬉しそうな笑みへと変わっていく。


「あ、ごめんなさい。なんだっけ?」


「だから、何なんだよソレ」


 俺は姫華を指差す。正確には、その体を周りを覆う二センチメートルほどの透明な膜を。


「んー、なんていうか、コレを自由に操ることが私の能力なの」


「⋯⋯はぁ?」


「だからコレを操ることが私の能力なんだって。えーっと、何か⋯⋯あ、そうだ」


 その言葉の意味を理解しきれていない俺を見ると、姫華は顎に人差し指を当てて周囲に視線を回し、先程までバットだった鉄の塊でそれは止まった。


「見てて」


 姫華はその場に立って動かないまま、膜から触手のようなものが窓と鉄の塊の二方向に向かって伸びていき、片方がまるで人の手のように器用に窓を開けると同時、鉄の塊を先端で包んだ方の触手が外へ向けて豪速球を放った。一瞬にして、鉄塊は見えなくなるまで飛んでいく。


 俺は、理解する。それが姫華の力の本質なのだと。普段だったら深く考えることなく、姫華が窓を開けて投げた、とそれだけを考えていただろう。しかし、本当は、その一連の行動は、膜から伸びた触手のようなものがそれを実行していたのだ。


 『不可視の力』、俺はそれを漠然と捉えていた。例えば先日の光景──何故か思い出すと、何故かソレが視える状態で脳裏へと浮かんだ。姫華の膜から銃弾のように飛び出したソレの一片が少女の頭を吹き飛ばす。飛び散った脳漿は、広がったソレが壁のようになって防いでいた。銃弾は姫華の背後で膜に包まれていた。摘んだ銃弾は、指先を起点にして投石器のようにして撃ち返されていた。更に過去、襲撃者の男の首を切り飛ばしたのは文字通り射出された透明な刃だった。銃弾の嵐は、脳漿と同じように透明な壁が防いでいた。


「良かったね」


 今度は、姫華の声で俺が我に返る。その声はどこまでも嬉しそうに、俺を祝福していた。


「お兄ちゃんの『力』、覚醒したね」


 そうか、俺はこういう普通の人間には視ることが出来ないものが視え──


「──『私の力が視える能力』だよ」


「⋯⋯は?」


 そんな限定的な能力、有り得ない。もっと汎用性の──


「分かるはずだよ。頭の中に思い浮かぶの。自分の能力がどんなものなのか」


 その言葉と同時に、頭の中に俺の思考ではない何かが侵入してきた。そして、理解する。させられる。俺の能力は。


 ──『姫華の能力の可視化』


 それが俺に与えられた唯一の異能。


「あ、その顔。図星なんだ。やっぱりそうなんだ! 嬉しい! 私に特化した能力なんだね!!」


 姫華は俺に抱きついてきた。

 俺はそれを振り払うことが出来なかった。


 いつか、目覚めるはずの俺の力。俺だけの『異能』。望みを抱いていた。それは、目の前の強者を殺し得る能力なのではないかと。欲し続けた。姫華への殺意を絶やさずに、力を求め続けた。


 嗚呼、そうか。自分で言っていたじゃないか。何度も言い聞かせてたじゃないか。


 願うだけでは、何も得ることなど出来ないのだと。


 俺は願っているだけだったのだ。いつか殺してやると、どうにかして殺してやると。その手段を探してやると。具体的な手段を模索していた。そしてその一つの手段として、自分自身の『異能』に望みを掛けていた部分は大きい。しかしてそれは、願っているだけ、縋っているだけのものだった。


 抱きつかれたまま、俺は呆然と自分の手の平へと視線を向ける。そこにいつか宿るはずであった、『力』を夢想して。視界の端に、透明な膜が写り続ける。それが紛れもない現実なのだと、知らしめるように。


 俺の中で何かがひび割れる音がした。

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