3. コスプレイヤーの焦る時
「信じられない……お煎餅屋のおばあちゃんからも声かけてもらえるなんて……キャラが認知されてる……恋戦ゲーム化あったらおばあちゃんカメオ出演待ったなしじゃん……」
「歴史ありそうなお店でしたね! ウミさんが子供の頃からあったりしました?」
「そう! あのお店はリアルにおばあちゃんがたまにお土産で買ってきてくれてさ、ひなあられ好きだったな」
ヒー地元の声! 最高〜! と言いながら永瀬さんは悶えた。
そう。
この恋敵戦争の聖地は私、ウミウシの地元である。
といっても、住んでいたのは高校生までだ。進学、就職とその先は私はこの地元から離れて生活してきた。今ではもう人生の半分以上をこの地元から離れて暮らしているのだなと思うと少し感傷的になってしまう。
一応、年末年始は実家に帰っているけれど、やや交通の便が悪い我が実家からこんな街の中心部へはほとんど出かけない。おかげでこの商店街も知っている店より知らない店の方が多くなってしまった。
まあ、商店街といっても私の高校生の頃には半分以上がチェーン店になっていたし、入れ替わっているのもそういったお店だ。少ないけれど昔からあるお店は細々と続いているのを見るとホッとする。
「ウミさんの掛川先生がここを歩く姿見たかった……私のバカ……でもウミさんのけいくんレアキャラ過ぎるし顔もポーズも常に最高すぎるから幸せで困る」
「ひゅーやったやった」
けいくんが三巻裏表紙でしていたピースのポーズを取ると永瀬さんは無言で写真を撮り天を仰いでいた。
更衣室では焦ったけど、こうして永瀬さんと一緒に楽しめて良かった。
本当は今日、私は掛川先生をやる予定だった。けれどこうして学ランを着ているのには理由がある。
なんと永瀬さんがウィッグを忘れてしまったのだ。