2. この街イベあったけえ……あったけえよ……
「すみません……もう……ウミさんにはホテル予約から何からなにまで本当に……」
「はいはいそこまで、謝るの終わり!『一緒に楽しもーぜ』!」
「けいくんの初登場回ラスト台詞〜!最高眼福撮らせて」
すぐさま手近な壁に寄って周囲の人が写り込まないようにしてポーズを取る。掛川先生コスの永瀬さんはパシャパシャ撮り始めた。
「はー最高、背の高いけいくんもありですホント」
一緒にスマホの画面を覗き込んで写りを確認する。
あーいつもより自分の素顔になっちゃってる。テーピングしてないから余計に。けどこれを言ったら永瀬さん気にするから言わんとこ。
「次は自撮り行きましょ」
自分のスマホを取り出す。レンズに写る永瀬さんの掛川先生もめちゃくちゃ可愛い。これは身長逆転パロもありでは? 今度の撮影でできないか後で永瀬さんに相談しよ。
はーコスプレ最高楽しー!
永瀬さんと自分、コスネーム『ウミウシ』はここ3年ほどのコス仲間だ。『永瀬さん』というのももちろんコスネームである。お互いに本名は知らない。
今お互いコスプレをしている作品「恋敵戦争」がきっかけで知り合った。恋戦のWeb連載がひっそり始まった当初から「この作品のコスプレしてえ!」という情熱と気合が噛み合い、連載開始の3週間後から今の今までほぼ毎月撮影会をしている。
「ウミさんこんなに恋戦のレイヤーさんいますよ……聖地に……」
「幸せすぎる……」
そう、ここは恋敵戦争の聖地。というか作者様の地元。
ひっそり始まった恋敵戦争は私達のコスプレがネットで評判になるなんてこともなく、昨年はじめに大御所俳優さんが「娘からおすすめされて読んでいる。面白い」とSNS投稿したことからバズりにバズった。ネットニュースにも取り上げられまくったし、一部地上波でも放送された。
最新話が更新される度に関連ワードがトレンド入りするようになり、同人誌即売会にも続々と描き手と書き手の神々が降臨し、レイヤー人口も増え、ついでに我々の細々としたコスプレ写真の投稿も閲覧数が増え、ついに今年、アニメ化決定が発表された。
その流れで今日はこの聖地で初のコスプレ街イベントが、それも恋敵戦争公式コラボイベントと同時開催で行われる運びになったのだ。
なおコスプレイベントは恋敵戦争公式イベントではない。あくまで同時開催である。
元々コスプレイベント企画会社が街イベを計画していて、たまたまそこに恋敵戦争公式コラボイベントが被ったのだ。
コスイベ主催者さんの中の人も「まさか一年以上前から商店街の方々と打ち合わせていたイベントが被るなんて驚きです」とSNS投稿していた。
便乗商売なんて心無い投稿をする人もいたがそんなことはどうでも良い。
大事なのは、この大きな商店街のアーケードにたくさんの恋敵戦争タペストリーがはためいていること、そしてほとんどのお店でコスプレ入店OKなこと、商店街のお店の人たちが「あっ恋戦ですね!」と温かく声をかけてくれることダァー!!!