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みんなが聖剣を狙ってる。  作者: 長坂グリム
1章 フェリクス・カルヴァ
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9 ダーウェント剣術道場の天才児

「まあ待て! 待ちなって!」


 一触即発の空気の中、ナーレンが間に割り込み、両者を手で制した。


「血を流すのはまだ早い。話し合いの余地があると思うが?」

「話し合いですって?」


 応答しつつも、ヘレフォードは剣を下げない。

 もちろんフェリクスも戦闘態勢を崩さない。


「ナーレン! どういうつもりだよ!」

「おまえは血の気が多すぎる。人間同士で血を流すほど無益なことはないぞ」


 フェリクスをたしなめてから、ナーレンはヘレフォードに語りかける。


「少し考えてくださいよ。仮にここでフェリクスから聖剣を奪ったところで、何も問題は解決しないじゃないですか」

「……問題とは?」

「聖剣を握った人間は、聖剣から離れると死ぬって問題ですよ。ここで聖剣を奪い取った後、あなたがそれを誰に手渡すかは知らないが、新たな使い手も今のフェリクスと同じ問題に直面することになる。なあ?」


 ナーレンに同意を求められて、オボロは大きく頷いた。


「そうそう、そうなる。これは別に、僕が意図して行っているわけじゃないよ。原因不明なんだから、多分次の持ち手も同じ目に遭わせちゃうだろうね」

「適当言ってるんじゃない! 舌先三寸で私達を追い返そうとしても、そうはいかんぞ!」


 ミラは反論したが、


「……いや。たしかに、一理あります」


 ヘレフォードは冷静に応答した。


「それは十分に深刻な問題ですね。解決手段を見いださない限り、むやみに剣を奪うべきではない、というロジックは分かります。なんなら、その剣を奪った瞬間、次は私がそうなるかもしれない」

「でしょうよ。だから……」

「とはいえ我々も、手ぶらで帰るわけにはいかないんですよ」

「つまりあなた方は、聖剣をイベリンギア解放のために使いたいんですよね」

「いかにも。聖剣は、国と教会によって選抜された勇者に引き渡されます。その勇者は、我々の組織によるサポートの下、イベリンギア解放という困難なクエストに挑むことになる」

「俺たちがその役目を果たす、と言ったら、どうです?」


 ナーレンは堂々と言い切る。


「フェリクスが聖剣を握る勇者になって、イベリンギアを覆い尽くす魔界樹の森を片っ端からなぎ倒す、と約束します。これで、あなた方の目的は十分に果たされると思いますが?」

「おいナーレン! 勝手に請け負うんじゃねえよ!」


 フェリクスは抗議の声を上げたが、ナーレンは一切悪びれない。


「生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ。第一、俺たちの仕事は変わらない。ひたすらに魔界樹の森を狩りまくる。ちょいとイベリンギア方面にも足を伸ばすってだけだ」

「……あなた方に、それだけの実力があるのですか?」


 ヘレフォードは問いかける。

 ナーレンは自信満々に答える。


「それについては、二点お答えしましょう。まず第一に、仮にその実力を欠くとしても、フェリクスとしては、この場で命を失うよりは、魔界樹との戦いの果てに死んだ方がはるかにいい。それから第二に、このフェリクス・カルヴァという男、実はかの有名なダーウェント剣術道場の師範の息子でしてね」

「なんと」


 ヘレフォードとミラは驚きに目を見開いた。

 ただ一人、オボロだけが不思議そうな顔をする。


「ダーウェント剣術道場?」

「グランガリア王国でもっとも有名な剣術道場だ。王都カーロンに本拠を構えて、有名な剣客を多数輩出している。特に、出自を問わずに門下生を受け入れるのがいいところでね。一般市民と貴族の子弟が一緒に剣を学ぶんだ」


 オボロに説明した後、ナーレンはヘレフォードに声を向ける。


「あなたにも何人かいるんじゃないですかね、道場で剣を学んだ知り合いが」

「たしかに。ぱっと思いついただけでも、片手の指で余るほどにはいますね」

「そうでしょう。王家の剣術指南役も、事実上ダーウェント家が世襲しているようなものだし。おまえの父親もそうだよな?」

「……まあね」


 控えめに、フェリクスは認めた。


「あの、ダーウェント家の人間なのですか、君は」


 ヘレフォードは驚愕を隠しきれずにいる。


「正確には、俺は養子だよ。血のつながりはねえ」

「だとしても、道場で仕込まれた剣の腕は本物ですよ」


 ナーレンはさらに売り込み文句をまくし立てる。


「メキメキと才能を発揮して、一時は道場の跡継ぎ間違いなし、と言われたほどなんですよ、こいつは。養子の分をわきまえる、とか言って身を引いたそうなんですがね。そんな腕前を持つ冒険者を、この場で死なせてしまうのは大いなる損失じゃありませんかね」


 ヘレフォードは黙考し――

 ついに戦闘態勢を解いた。腰に剣をしまい、両手を拡げてみせる。


「分かりました。そこまで言うのなら、一旦、聖剣はあなたに預けることにしましょう」

「本気か、ヘレフォード!」


 ミラは驚きと共にヘレフォードを見やる。


「まだ、こいつが本物のダーウェントの人間だと決まったわけじゃない! こいつが舌先三寸で私達を丸め込もうとしているのかも……!」

「いえ、おそらく本物でしょう。風の噂程度ですが、聞き覚えがありますよ。ダーウェント家の天才児が道場を出て冒険者をはじめた、なんて話。特に気にも留めていませんでしたが、このような形で対面することになるとはね」

「詐欺師が噂を利用している、という可能性もあるだろう」

「ただの詐欺師では、あのような隙の無い構えを取ることはできませんよ」


 ヘレフォードは視線を送り、フェリクスを見るよう促す。


「大した物です。こちらが勝つイメージがまるで浮かばない。恐るべき剣気です」


 フェリクスはここに至ってやっと力を抜き、借り物の剣を鞘に収める。


「鍛冶屋に行って、剣を取ってきても構わねえだろうな?」

「どうぞどうぞ。我々に、それを止める権利はなさそうですね」


 ヘレフォードは一歩退き、鍛冶屋の方向へ手を差し伸べる。

 フェリクスはヘレフォードたちに油断無く視線を配りながら移動し、小走りに鍛冶屋へ向かった。


「ミラ。君は、この方々と共に行きなさい」


 ナーレンを示しながら、ヘレフォードは言う。


「へ⁉ 一体どういうことですか!」

「彼に聖剣を預けるのはいいとして、お目付役がいなくては」

「それはたしかにそうですが、私ですか⁉」

「私は本部に帰って、責任者として事の次第を報告しなければなりませんので。それとも、ミラが報告に行ってくれますか?」

「それはそれで……まあちょっと……」


 口ごもるミラをよそに、ヘレフォードはナーレンとオボロに向き直る。

 そして事務的な笑みを浮かべ、頼み込んだ。


「この子をあなた方のパーティに加えてやっていただけませんかね? 苦労の末にやっと見つけた聖剣を、ここで見失うわけにはいかないのですよ」

「いいだろう。監視役をつけられるのはあまりいい気分じゃないが、その辺は妥協しよう」


 ナーレンは即答した。

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