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みんなが聖剣を狙ってる。  作者: 長坂グリム
4章 アラム・ハーウェル
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20 死せる弔問客

「⁉ てめえ……!」


 フェリクスは咄嗟に剣の柄に手をかける。

 ロアリーもミラも、思わず戦闘態勢を取る。


「諸君、幻に怯える必要はないよ。彼は一人だけだ」


 ただ一人、オボロは冷静に、フェリクスたちに呼び掛ける。


「レプリカの気配は感じない。つまり、レプリカの持ち主はどこか遠くにいるってことさ」

「……そうかい」


 フェリクス達は戦闘態勢を解く。最大限の警戒はしながらも。

 オボロは来訪者に語りかける。


「さっきはどうも、僕たちを引きずり回してくれて。こんなに早く再会できるとは思っていなかったよ」

「フフフ……」


 海賊帽の男は、落ち着いた様子で、静かに微笑む。


「まずは、お名前を教えてくれるかな」


 オボロに乞われて、男は海賊帽を脱いだ。帽子を胸に当てて、小さく一礼する。


「私はベルナール・イベルズ。かつてピレンヌ隊の遭難事件で生き残り、そこのジャンヴィル達に殺された男だよ」

「その自己紹介は、ある意味では正しいが、ある意味では間違っている」


 フェリクスたちが殺気立つ中、オボロが冷静に応対する。


「君は、聖剣オボロブランドのレプリカによって生み出された幻影だろう。つまり、僕の同類だ。本物のベルナール・イベルズじゃあない」

「同類……なるほど。あなたはただ者じゃないと思っていた。私と同じ存在とはね」


 海賊帽の男――ベルナールは小さく笑った。


「ここに本物の聖剣がある」


 フェリクスが一歩踏み出し、腰に差した聖剣を見せつけつつ、オボロを指さす。


「こいつは、この聖剣が生み出した幻だ。あんたも剣が生み出した幻で、どこかに剣の持ち主がいるはずだよな。ジャンヴィルだけじゃねえ、ターク・バーコットをはじめ、ピレンヌ隊遭難事件の生き残りを襲った殺人犯が」

「やはり、そこまで調査済みか。大したものだね」


 穏やかな態度を保ったまま、ベルナールは語る。


「さぞかし、犯人を捕まえたいところだろう、あなた方は。たしかに、近所にまでは来ているよ。だが、決して見つからんよ」

「だろうな」


 フェリクスは認めた。既に周囲は真っ暗、星すら見えない闇夜だ。闇に紛れた相手を探し出すのは不可能だろう。


「それじゃ、一体何しに来た? ジャンヴィルが死んだのを確認しに来たのか? それとも、護衛対象を守り切れなかったマヌケどもをあざ笑いにでも来たか?」

「そんなつもりはない。私は話を聞いてもらいに来た」

「話を聞けだと……? ジャンヴィルを殺しておいて、寝言でも言っているのか?」


 ヒートアップしかけたフェリクスだったが、


「まあ落ち着け。向こうに言いたいことがあるってんなら、聞いてやろうじゃないか」


 ロアリーがフェリクスを引き下がらせる。


「俺たちも色々聞きたいことがあるしな。まず、あんたの持ち主の名前を教えてもらえるとありがたいんだが」

「それは教えられない。ただ、復讐者とだけ言っておこうか」

「復讐者?」

「私を殺した男達に復讐をする者だよ」

「はーん。じゃあ、あんたのことについて聞きたい。そう言えばさっき、『ジャンヴィル達に殺された男』とか名乗ってたっけな。どういう意味だ?」

「文字通りさ。五年前、遭難事件の後の、山賊狩りの途中で、私はジャンヴィル達五人に殺された」


 過去を思いだしてか、ベルナールの顔つきは暗くなる。


「事の発端は、隊商の遭難事件だ。もちろん君達も知っているだろうね? 山賊達は丘越えルートに罠を張り、落石で隊商の護衛隊を壊滅させた。用意周到な襲撃だったよ。そう、あまりにも手際が良すぎた。まるで、ピレンヌ隊があのルートを通ることを事前に察知していたかのように」

「……誰かが山賊に情報を流していた、とでも言いたいのか?」

「そうだ。ターク・バーコット達が山賊に、隊商の進路を漏らしていた。山賊どもはその情報を元に罠を張って、隊商を襲撃したんだよ」

「証拠はあるのか?」

「その後、ターク・バーコットが財をなしたことは知っているだろう。隊商からの略奪品を売り払った金を元手にして、大成功したんだよ」


 怒りの色を声にこめて、ベルナールは語る。


「襲撃の時、私は偶然生き残った。そして山賊狩りの最中に、バーコットが山賊どもと通じていることを悟った。あいつは最前線に立って戦っているふりをして、山賊どもを逃がしていたんだ」

「で、そのことをその場でバーコットに訴えたのか」

「ああ。二人きりで話す場を設けて、あいつに言ってやった。ところがバーコットは、遭難事件の生き残り仲間を買収していた。結果、バーコット達が逆に私を追い詰めて――」

「処刑した?」

「そう、処刑だ。私はバーコットの罪を暴こうとして、逆に処刑された」

「だから今、復讐を果たしている、というわけか」


 ロアリーの言葉に、ベルナールは大きく頷いた。


「その通り。四人まで報いを受けさせた。だが最後の五人目、キースリーは、あなた方ががっちりガードしている。さすがにこのままじゃ、復讐を完遂できない。だからこうして、あなた方の良心に訴えかけに来たというわけさ。バーコット達はギルドメンバーを裏切った。私だけじゃない、遭難事件で命を落とした十四人も、バーコット達に殺された被害者だ。重大な背信行為を行った者達が、のうのうと生きていていいはずがない」

「…………」


 フェリクスは言葉を失う。

 主張が事実であれば、ベルナールの――そして、「復讐者」の行いも理解できる。

 けれども――


「おたくの言いたいことはよく分かったよ」


 何食わぬ顔で、ロアリーは言う。


「とはいえ、調査部員ってのは、ありとあらゆることを疑ってかからねばならない、因果な商売でね。少なくとも、キースリーの主張を聞かないことには、はいそうですか、こちらキースリーの生首ですので持っていって下さい、とは言えんよ」

「キースリーが正直に答えるとは思えないがね。過去に犯した罪を悔い、正直に告白するような人間であれば、そもそも五年前、私の告発に同意してくれたはずだが」

「それは聞いてみなければ分からない」

「キースリーが何を言おうと、私は必ず復讐を遂げる」


 そう宣言してから、ベルナールは一息ついて、緊張を解く。


「また来るよ。次にはいい返事が聞けることを期待している」


 くるりと踵を返し、開け放たれた戸口から出て行こうとする。


「ちょ……ちょっと待て!」


 咄嗟に、フェリクスはベルナールを呼び止めた。

 ベルナールは足を止め、くるりと振り返り、フェリクスの言葉を待つ。


「えーと、その……一週間後だ!」

「一週間? 何の話だ」

「一週間で、あんたの話の裏付けを済ませる。キースリーの話も聞けるだろう。そのうち正気に戻るはずだからな。そして、俺たちとしての結論を出す。あんたの話が真実ならば、キースリーの身柄を引き渡す」

「おい、本気で言っているのか、フェリクス!」


 ミラが鋭い声でフェリクスを咎める。

 が、フェリクスはそれを無視して更に言った。


「もし、ギルドメンバーを裏切り死に追いやった者が、何の制裁も受けずに生きているのならば、然るべき報いを与える必要がある。あんたの怒りも正当だ」

「ほお……そいつは、心暖まる意見だ」

「だから一週間後、もう一度来てくれ。ただし、本人も来い」

「本人……?」

「あんたの持ち主、実際に四人を殺した人物に、だ。是非とも直接お目にかかりたい」

「おびき出して捕まえようって腹づもりかな」

「そんなつもりはないさ」


 ロアリーがフェリクスの話に乗った。


「こっちは、ギルドメンバーを差し出してやろうと言っているんだ。ギルドにバレたら、俺たちが制裁されかねない。危ない橋を渡る以上、そっちにも誠意ってものを見せてもらいたい」

「…………」

「会合の場所はそっちが決めてくれ。病み上がりのキースリーを連れていく都合上、ラボラスかその近辺を指定してくれると都合がいい」


 申し出について、ベルナールはしばらく考え込んでいたが――


「……分かった。会合の場所は後で伝える」


 ついに承服した。

 最後に手を一振りすると、戸口から出て行った。


「よくやった。これで敵と直接対面できる」


 ベルナールの気配がすっかり消えてから、ロアリーはフェリクスに言った。


「しかし一週間とは、随分短めに区切ってくれたな。一週間でファルモントを見つけられるかどうか、かなり怪しいぞ」

「仕方ねえだろ。あそこで一年待てとか言えるか」

「まあ確かに。しかし面倒だな」


 腕組みして、ロアリーは考え込む。


「ま、君にしてはいい判断だったよ」


 オボロはフェリクスを励ますように言った。


「ベルナールの話に同情し、キースリーを売ってもいいと臭わせることで、彼を信用させた。殺人犯本人を引っ張り出さない限り、問題は解決しないからねえ」

「……なんだ。キースリーを引き渡す、ってのはウソか」


 ほっとした様子で、ミラは呟く。


「必ず、とは言ってねえ。方便って奴だ」


 フェリクスは固い表情で答えた。


「俺はキースリーを信じるぞ。ベルナールが一方的に語った内容が真実の全てだとは限らねえ。判断はキースリーの話を聞いてから下す」

「もちろんだ。それでいい」


 ロアリーはフェリクスの肩を軽く叩いた。


「ただし俺は、ベルナールの話が全て真実であるという可能性についても備えておく。キースリーたちが仲間をハメて謀殺した、って言うんなら……」

「その時はどうする?」

「おたくが言った通りだよ。ギルドメンバーを裏切った者に対しては、必ず制裁を下さねばならん」


 低い、しかしよく響く声で、ロアリーは断言した。

 室内は重苦しい沈黙に包まれる。

 ロアリー自身が苦笑を漏らして、部屋の空気を和らげた。


「何にせよ、一週間後だ。必要な情報をかき集めて、一週間後にケリをつける」

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