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みんなが聖剣を狙ってる。  作者: 長坂グリム
4章 アラム・ハーウェル
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10 引退した冒険者の死

「おりゃああ――ッ!」


 雄叫びを上げながら、フェリクスは地を駆ける。

 鳥の頭に人の身体を持つ魔獣が、長い爪でフェリクスを裂くべく腕を伸ばす。

 フェリクスは魔獣の横をすり抜け、輝く聖剣を振り抜く。

 魔獣の爪は空を切る。

 聖剣は、魔獣の胴を両断していた。

 ずるり、と魔獣の上半身が滑り落ちる。

 下半身は更に数歩進んでから崩れ落ちる。

 遠くから火球が飛んできて、上半身下半身ともに燃え上がる。


「いい調子だ! どんどん燃やすぞ!」


 炎の精霊を操りながら、ナーレンが気勢を上げる。


「燃やす的が多すぎる! あの二人組、仕事を残しすぎじゃないのか⁉」


 メイスの先端に魔法の炎を宿しながら、ミラは魔獣を殴る。背に木の枝を生やした狼型の魔獣は顔面を打たれ、頭を地面にめり込ませる。


 アレンとクレイ(そしてボリス)が残した仕事を引き受け、フェリクスたちは魔獣狩りに従事している。

 アオニア村から数百メートル離れた荒れ地に、数本の魔界樹が固まって立っている。アレン達が十数本ほど刈り倒した跡が残っていたが、それでもまだ、結構な頭数の魔獣たちが魔界樹のもとに集っていた。


「フェリクス! 大物だ!」


 オボロの呼びかけと共に、大地が震える。

 崖上から巨体を誇る魔獣が飛び降りてきた。

 魔獣は黒い蛇のようなものをしならせ、飛ばす。

 それは聖剣に絡み、何重にも巻き付いた。


「ぬわぁ! こいつ……カエルかよ!」


 大物の魔獣の正体は、大ガエルだった。

 体高二メートルに達する、黒肌の大ガエル。

 黒い蛇と見えた物は、長い舌だった。

 馬を一頭丸呑みにできそうな大口を開き、舌で聖剣を奪い取ろうとしている。


「クソッ! 俺ごと食うつもりかよ!」


 舌は力強く、聖剣どころかフェリクスまでも引きずり込まれそうな勢いだった。

 刃を立てて舌を切れないか、と力を込めてみるものの、舌には妙な弾力が備わっていて、伸縮こそすれど、びくともしない。


「フェリクスと一緒に食べられるのは願い下げだねえ!」


 オボロは大ガエルに接近し、注意を引く。

 大ガエルは大口の上にくっついている二つの目をぎょろりと動かし、前肢でオボロを殴ろうとする。

 しかしオボロは幻影。前肢は空を切り、大ガエルはバランスを崩す。


「いいぞ、オボロ!」


 隙をついて、フェリクスは聖剣を舌の拘束から引き抜いた。

 一気に接近し、大ガエルの顔面へ上段斬りを叩き込む。

 大ガエルは大口を開けて迎え撃つ。おおよそカエルのものとは思えない、鋭い歯列があらわになる。

 しかしカエルの牙はフェリクスに届かず、聖剣によって縦に裂かれる。

 ゴゲァ、とでも表記すべき異様な鳴き声を上げて、カエルの口が十字に裂ける。

 カエルはなおも舌を操り、フェリクスを捕まえようとしたが、


「ナーレン!」


 フェリクスの呼びかけに応じ、ナーレンが火球を三発放つ。

 そのことごとくが大口の中に着弾。大ガエルは体内から炎上する。

 苦悶の悲鳴を上げ、その場でゴロゴロと転がるも、火は消えるどころかますます勢いを増す。

 やがて表皮が裂け、裂け目から火が漏れ、全身が燃える。

 あっという間に大ガエルは一個の大きな炎と化した。

 魔獣たちは不利を悟るということを知らず、次々にフェリクスたちに襲いかかる。

 だが一番の強敵を葬った以上、虚しい抵抗に過ぎない。

 フェリクスたちにとって、さして難しい仕事ではなかった。




「いやいや、見事な手際じゃな」


 魔獣と魔界樹を全て始末した後、現地視察にやってきた村長が、感嘆の言葉を漏らす。

 フェリクスたちは夜明けすぐに仕事をはじめ、二時間ほどで全て狩り終えた。太陽が南天に登り切る頃には、ほぼ全て燃え尽きていた。大地には消し炭ばかりが残り、わずかに白い煙を立てるのみである。


「これで我らも、安心して農作業に励めるというもんじゃ」


 村長は六十代くらいに見えた。髪はすっかり真っ白だが豊か。やや猫背で、木製の長い杖をついている。


「ま、慣れたもんさ。この程度ならね」


 余裕の態度でフェリクスは応じる。

 事実、魔獣どもはそこまで強くなかった。ただ、魔獣の頭数と残っていた魔界樹の本数が多く、手間がかかっただけである。

 村長はフェリクスに小袋入りの金貨を手渡す。


「これが報酬じゃ」

「ありがとうございます」


 フェリクスはうやうやしく小袋を受け取る。

 手応えは、軽い。

 村長とアレンを交えた協議の結果、今回の報酬は十分の九をアレン側が、十分の一をフェリクス側が受け取ることになった。魔界樹狩りに貢献した仕事量を比定しての配分である。

 十分の一の報酬を、さらにフェリクス、ナーレン、ミラの三人で等しく分けることになる。普段ならば、村から引き受けた仕事は半額割引にするところだが、他人から仕事を引き継いだ特殊ケースであることを踏まえ、フェリクスは報酬を全額いただくことにした。


「ところで、変なことを聞くようじゃが……このあたりで、死体が見つからなかったかね?」


 焼けた野原を見回しながら、村長が問う。

 フェリクスたちは顔を見合わせる。が、誰一人心当たりはなかった。


「なかったな。誰か、魔獣に殺されたのか?」

「いや、そういうわけじゃない。見つからなかったなら、それでいいんじゃ」


 村長はすぐに話題を切り替えた。


「以前は、この程度の魔界樹ならば、村の者だけで片付けておったんだがなあ」

「今回は冒険者ギルドに依頼したんだな」

「さよう。うちの村には、ジェラールという男が住んでおってな。引退した冒険者じゃ。ギルドに所属しておったそうじゃが、知らんかね?」

「ジェラール? 聞き覚えがねえな。いくつくらいの人?」

「四十そこらのはずだが」

「さあ……分かんねえな」


 フェリクスは首をひねる。


「住んでおった、ということは、今はいない?」

「ああ。ジェラールは村の墓場に葬られておる」

「葬られてる……?」


 ミラが目を丸くする。


「ジェラールがリーダーになって、村の若い衆を率いて、魔獣どもを狩っておったんじゃが、そのジェラールが何者かに殺されてしまってな。今回は冒険者を雇うしかあるまい、となったわけじゃよ」

「それはそれは、残念なことでしたね。犯人は捕まったのですか?」

「それが、捕まっておらんでな」


 深いため息を、村長はついた。


「村人全員で犯人を追いかけたんじゃが、逃げ去られてしもうた」

「殺人犯の姿は見ているんですね?」

「いかにも。見たことのない男じゃったよ。少なくとも村の人間ではなかった。ふざけた格好をした男でなあ」

「ふざけた格好、ですか」

「ここは海から遠く離れた場所だというのに、そいつは海賊帽を被っておってなあ。正面に星のマークがついた、派手な帽子じゃったとも」

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