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みんなが聖剣を狙ってる。  作者: 長坂グリム
2章 ミノン・ジャイルズ
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16 聖剣vsレプリカ

「魔獣ども! こんな時に寄ってくるんじゃないよ!」


 ナーレンが叫び、森から現れた魔獣の群れに炎の弾を打ち放つ。

 闘争の気配に誘われたか、十数匹の魔獣たちがゾロゾロと寄せてきた。ゴブリン風の二足歩行魔獣、背や角に枝葉を生やした四足獣の魔獣が、ナーレンたちに迫る。


「フェリクスに加勢したいところだが、こっちが優先か……! 死ぬなよ!」


 大声で呼び掛けつつ、ミラがメイスを振るい、魔獣たちに立ち向かう。

 ブロサルドとアローラも、押し寄せる魔獣の波を押し返すべく前進。

 フェリクスとセザルは一対一で対峙する。


「ぬらぁぁぁぁ――ッ!」


 セザルが一気に押し寄せる。防御をまったく考えない勢いで剣を振るい、真っ向からフェリクスに斬りつける。

 フェリクスも真っ正面から剣で受け止める。

 二本の刃が噛み合った瞬間、強烈な風圧に襲われる。

 フェリクスのジャケットの胸部が、一直線に裂ける。


「なに⁉」


 予想外の事態に、フェリクスは慌てて飛びすさり、距離を取り直す。

 傷は浅い――というか、そもそも肌にまで達していない。上衣が浅く裂けただけだ。

 だが明らかに、セザルの斬りつけでできた裂け目だ。完全に剣で受けたはずなのに。


「おいオボロ! あの野郎の剣から衝撃波みたいなのが出てきたぞ!」

「出るかもね。聖剣は持ち主の怒りの応じて力を増すって言っただろ」


 そばに控えるオボロが、脳天気な調子で返す。


「今はまだしょぼい威力のようだけど、時間が経つほどにパワーアップするかもよ」

「フェリクスゥゥ!」


 セザルが叫び、捨て身の斬撃を放つ。

 フェリクスは大きく退き、大きく避ける。

 セザルが一振りするごとに、地面に裂け目が刻まれる。明らかに切っ先と地面が触れていない場所も裂け、雑草が舞い上がる。


「逃げるなッ! さっさと死ね! 聖剣は私のものだッ!」


 半狂乱の体でセザルは剣を振り回し、恐れることなく踏み込み続ける。

 フェリクスは防戦一方に徹するしかない。反撃の暇を掴めず、後退を余儀なくされる。

 しかしついに、その背が壁のようなものにぶつかる。見上げれば、魔界樹ではない大木が、フェリクスの背後にそびえていた。


「やっと追い詰めた……!」


 セザルは歯をむき出しにして笑う。肩で息をし、激しく消耗しているものの、勝利を確信して力強く踏み込み、


「死ねッ!」


 中段の横薙ぎを放った。

 光り輝く刀身が、大木の幹を捕まえて――

 ケーキのごとく、あっさりと斬り裂いた。

 だが、その手前にいたはずのフェリクスは、セザルの視界から消えていた。

 寸前、寝転がる勢いで身を捨て、地面すれすれから一閃を放つ。

 無防備なセザルの腹部を捉え、真一文字に裂く。

 フェリクスは真横に転がり、セザルの間合いから逃げて、立ち直る。


「な……に……」


 セザルは目を剥いたまま、しかしその表情は憤怒から当惑へと変わる。

 腹から大量の血を流し、その場に両膝をつく。

 剣を地につき、立ちあがろうとしても、立ちあがれない。

 大木の枝葉がざわめく音が、耳を聾する。

 セザルはその場で頭上を見上げる。

 彼が最期に見たのは、自分の方に向かって倒れてくる大木の樹皮だった。




「どうやら、剣を折る手間が省けたようだね」


 真ん中から二つに折れたレプリカ剣を見ながら、オボロは淡々と言った。

 大木の倒壊に伴い、変な巻き込まれ方をして、はじけ飛んだのだろう。レプリカ剣は大木から離れた場所で、折れて転がっていた。


「そのようだな……」


 力ない声で、フェリクスは答えた。

 例え憎い敵であろうと、大木の下敷きになるという凄惨な死を遂げ、しかもその瞬間を目の当たりにしたとあっては、喜ぶ気にはなれなかった。


「幹ごと真っ二つとか、冗談だろ。レプリカなのに、こんな威力が出るのか」


 セザルの最後の一撃は、大樹の幹を完全に両断していた。

 その断面はつるりとして滑らか、刻まれた年輪がはっきりと読み取れる。

 ここまできれいに切れるとは、当のセザルですら予測していなかっただろう。


「聖剣は持ち主の怒りに応じて力を増す。この刺客は君に怒りを覚えて、聖剣の力を発揮した。木が切れたのはそのついでだね」


 咄嗟の判断で逃げていなければ、フェリクスも死んでいた。それを思うと、心を落ち着かせるのにはまだ時間が掛かりそうだった。

 あたりを見渡す。貴族風の男はもちろんのこと、セザルの従者も姿を消している。主人の死を目の当たりにして、さっさと逃げたようだ。

 魔獣を撃退したミラたちが、フェリクスのもとに歩み寄る。

 倒木の下から伸びる手に顔をそむけてから、ミラは折れた剣を見つめ、オボロに問いかける。


「これでいいのか? 剣を砕けば、宿っていた力が元に戻ると言っていたが」

「うん、そこは目論見通りだよ。ほんの少しだけながら、なくしていた力が戻ってきた。予定じゃ、もう少し先のことになるはずだったんだけどねえ」

「……そうだ。ミノン……!」


 フェリクスは頭をもたげ、弾かれたように走り出す。

 一瞬遅れて、ミラたちもその後を追う。




 メデューサヘッド亭の一階フロアで、宿屋の大将は数人の衛兵達と話し込んでいた。

 飛び込んできたフェリクスたちに気付くと、足下を指さしながら叫ぶ。


「あ、あんた方! お仲間の方が……!」


 血臭が、フェリクスの鼻孔を打つ。

 ミノンは担架の上に仰向けに寝かされていた。

 全身血まみれになって、ぴくりとも動かない。命の気配は完全に消え失せている。

 いつもそばにいたマノンの姿は、どこにもない。


「……クソッ!」


 フェリクスは壁を叩き、嘆くことしかできなかった。




 数日後――


「すまない、ミノン。俺がラボラスに来たばっかりに」


 ミノンの墓前にて、フェリクスは後悔を口にする。

 ミノンはラボラスの公共墓地に葬られた。それなりに立派な墓石を立てられたのは、スレッサー卿による出資のおかげだ。

 しかし、いかに墓石が立派であろうと、ギルドの仲間を失った悲しみは、たやすく癒やせるものではない。


「おまえの気にすることじゃない。一番悪いのは、ミノンを殺した奴だ」


 ブロサルドが慰めの言葉をかける。


「……気を遣わせて悪いな。パーティメンバーだったお前らの方が悲しいだろうに」


 と言葉を返してから、フェリクスは怒りをたぎらせる。


「そうだ、悪いのは刺客ども、そして刺客を次から次へと送り込んでくるクソッタレだ。奴等がハッピーエンドを阻害している。なあミラ、ヴェルデニアの全権大使が黒幕だって言ってたよな」

「そうだとシャドウフットは把握している」

「だったら今からカーロンに行く。黒幕をぶっ殺してめでたしめでたし、といこうじゃねえか」

「それは現実的とは言えんな、フェリクスよ」


 ナーレンがかぶりを振りながら指摘する。


「帝国の大使を暗殺するなんて、正気の沙汰じゃないぞ。国レベルの問題になる」

「だったら、黙って刺客どもに襲われ続けるしかねえのかよ。俺自身の身は自分で守れるが、周りの人間が巻き込まれるとなったら、どうしようもねえじゃねえか」

「おまえの気持ちは分かる。だが、どうしようもないんだ、本当に」


 ミラがフェリクスの肩を叩く。


「その辺を黙らせるために、シャドウフットが働きかけている。私達がコントロールできることじゃない」

「じゃあ俺たちは何をすればいい」

「できることをするのさ。レプリカ剣を探して周り、僕の力を元に戻して、君が安全に聖剣を手放せるように努める」


 いつもの薄笑いを浮かべつつ、オボロが言う。


「仲間のために怒るのも結構だけど、君自身も命の危機にあることを忘れてはいけないね」

「……ま、そうだけどな」


 フェリクスは頷くしかなかった。

 そしてブロサルドに別れの握手を求める。


「いっちょ、気合いを入れる。頼むぜ」

「やろうってのか。遠慮はしないぞ」


 笑ってブロサルドはフェリクスの手を握り返し、全力を込めた。


「はあああ――ッ」

「おおおおおッ!」


 二人は声を張り上げ、相手の手を潰しにかかる。

 しばしの均衡の後――


「……あだだだ! 俺の負けだよ!」


 ブロサルドの握力が限界を迎え、悲鳴を上げる。

 フェリクスは勝者の笑みを浮かべて、手を離した。


「おまえらは、まだラボラスに留まるんだな」

「ああ……あー痛ぇ」


 顔をしかめ、手をブルブルと振りながら、ブロサルドは答える。


「パラミノ村領域は解放できたが、魔界樹の森はまだまだ広い。しばらくここで頑張るさ。おまえらはトロッサに戻るのか」

「そのつもりだ。またいずれ会おう」


 挨拶を交わした後、フェリクスは最後にもう一度、ミノンの墓に向かい合う。

 そして、ミノンの魂がマノンと共に安らいでいることを、心の底から願った。

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