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妄想の帝国

妄想の帝国 その88 ネトニホン語族

作者: 天城冴

ニホンの政界進出を意気込む作家のモモタンは自ら作った政党の結党祝賀会で眠り込んでしまう。気が付くと廃墟になったビルの物置で、意味不明の言葉を話す何者かか侵入…

「ふわあああ」

と大きな欠伸とともにモモタン・ネトキは永い眠りから目覚めた。

「うーん、確か、わがニホン伝統党の結党祝いで、結党祝賀会を開催したはずで~、ずいぶん飲んでしまった。トイレに行った帰り、間違えて物置に入って…そのまま寝てしまったのか。だから、事務所内にトイレや給湯室があるところがよかったのに、まあ、予算の都合上仕方ないか。共同とはいえ、このビルは新しいし…」

よろよろと立ち上がり、フロアの隅の物置からでる。

「うーん、やけに静かだな。皆もう、帰ったのか。しかし、結党祝いで、党首を置いていくとは、まったく」

ブツブツ言いながら、隣の新事務所兼祝賀会場の扉を開けると

「う、なんだ、かび臭い、匂いは」

新品のポスターやら、祝いの花で埋め尽くされていたはずのピッカピカの事務所は薄暗く、埃だらけであちこちにクモの巣が張っている。

「そんな、馬鹿な、たった一日で、こんな」

モモタンが呆然と立っていると、外階段のほうから声が聞こえてきた。

『ア、ダレカイルノカ?コンナ廃墟ニ』

『マサカ、アノ場所ハ、危険ダカラ閉鎖サレタハズダ』

と、廊下の反対側の扉が開いた。

「あ?」

『アアア!』

男性二人がモモタンを見て。だいぶおどろいたようだった。

モモタンも驚いたが、努めて冷静に

「おーい、いったい、どうなってるんだ、このビルを借りたばかりなんだが」

近づきながら話しかけると、二人は後ずさり、

『オ、オイ。ナニカ言ッテル』

『マ、マサカ、ネトニホンゴ族か?連中、マダイタノカ』

『ネトニホン語族対策局員ヲ呼ンデクル』

一人が小走りに走っていき、もう一人がにらみつけるようにモモタンを遠巻きにみている。

「いったい、どうなってるんだ。話しているのは、ニホン語だと思ったが、さっぱりわからん。どうも、警戒されているようだが…。私は、怪しいもんじゃない、だいたい新しいとはいえ、政党の党首…」

男に手を伸ばそうとして、ふと手をみると、

「ひゃああ、なんでこんなに、節だらけなんだ、お、オマケに毛が白い」

右手はシミがいくつもでき、節や血管が浮き出て、まるで老人の手のようだ。袖口からはみ出た腕の毛は真っ白。こころなしか、腕にも力がはいらない。

「こ、こんな、まさか、私はそんなに眠ってたのか?今は一体」

モモタンが腕を見ながら立ちすくんでいると、

『あー、やれやれ、モモタン氏ですか、こんなところに隠れてたんですね』

何やらスマートフォンぐらいの大きさの器機をもった年配の女性が近づいてきた。

『ネトニホン語族対策局員サン、ワタシタチハコレデ』

『あー、わかりました。通報ありがとうございます。あとは私が責任をもって処理しますんで』

先ほどの男たちが恐る恐るドアから出るのをネトニホン語族対策局員と呼ばれた女性が手を振りながら見送って、モモタンのほうに近づいて

『あー、さて、行きましょうかねえ』

と、いきなりモモタンの両手に手錠をかけられた。

「わー、何をするんだ」

腕を掴まれ、階段を降りさせられる。

『連行するんですよ、良識ある一般のニホン人に迷惑をかけないように』

「なんだとおお!私はニホン国を代表する作家で政治家になろうと」

『ホントに、何もわかってないんですか?ありゃ、地下に潜って逃げ回っていたというのは嘘で、結党祝賀会以来行方不明、ひょっとしてどこかで呑気に寝てるんじゃないかというのは本当だったんですか』

「行方不明?って一体、いまいつ」

『ニホン国歴10年ですよ、西暦で言うと、20〷年。まーいろいろありましたが、世界に誇れる良い国になりましたよ、ネトニホン連中がいなくなって』

その口ぶりにどことなく皮肉めいたものを感じたモモタン

「えっと、だ、誰がいなくなって、どう良い国に」

『あー、アナタ方ネトニホン語族みたいなニホンゴどころかニホン国をぶっ壊しかけた傲慢、自分勝手、デマ吐き、デタラメを垂れ流し、歴史を捻じ曲げまくり、他国を無意味に貶め攻撃しまくるようなアブナイ集団が隔離され、現実に堅実に経済、教育に力を注ぎ、世界情勢に即した外交中心の防衛を地道にやれてよい国になったということですよ』

「な、なんだ?ネトニホン語族だと?ど、どういうことだ?」

『あー、本当に知らないんですね。要はアナタ方もう、ニホンジンじゃないんですよ。ネトニホン語族地区の住人です、ニホン国の旧フクイチ地区、他にも旧原発立地地区に原発廃炉のため、隔離地区で作業してますけどね』

「なんで、どうして、そんなことに!」

『あー、ちょうど、アナタの自称政党の結党の次の日から、アナタ方の言葉がはっきり、しっかりニホンゴじゃなくなったからですよ。こういった翻訳機がないと通じなくなったんです。単語やら発音は似てるというか、そっくりなんですけど、意味がわからなくなった』

「な、なぜ?」

『あー、原因は不明、とにかく一般のニホン人にはわからなくなった。ひきこもりのネット依存の中高年やワンマンな社長や傲慢な父親と家族や従業員、取引先とで全く言葉が通じなくなった、政治家がわけのわからない言葉を話すとテレビ局にワンサカ抗議が来た。いや、テレビ局の人間も意味不明のことをしゃべると放送局の前で騒がれる、とある広告会社なんぞ、外部と一切意思疎通ができなくなって、全員建物の外すら出られなくなり、ついにはほとんどの人間が餓死したそうです』

「そ、そんな、馬鹿な」

『あー、とにかくそんなことが立て続けに起こってしまって、そういう言葉らしきものを話す人をより分けて、一時的に隔離したわけです。まあ、隔離されたもの同志は何とか通じてたみたいですが連中仲が悪くて。中でいさかいは何度もあって、だいぶ数は減ったそうです。何かの病気かと思って、身体的特徴やらなにやら共通性を調べてみたら』

「み、みたら?」

『あー、皆さん、いわゆるネトキョクウおよびその傾向があったんですよねえ、アナタみたいな。ニホンゴの意味を取り違えというか、もともとの意味を都合よく解釈して使うというか。デマを吐いても反省も訂正もしないで間違ったことを言い続けるとか、指摘されても直さず、開き直るとか。特にアナタ方作家モドキがそういう本来の意味から外れた文章をかきまくったせいで、SNSでもそういった連中が蔓延った。もともとのニホンゴと違う意味に使われまくり、それが進んでついに、ニホンゴとは違う言語になったのではないかと。いわばクレオール語というか、新天地にいついたいろいろな国の移民の言葉と現地の言葉が混ざり合ってつくりだされた言語のようにニホンゴから派生し、ついに全くの別の言語、ネトニホン語になったため、通じなくなったのだと』

「え、えー!わ、私の書いたもので、そ、そんなおかしなことにいい!」

『あー、だって、オカシイというか、デマというか、デタラメというか、滅茶苦茶でしたからねえ。病的なニホンビイキというか、歴史的史実も現在の国の状況も一切合切無視してやたら美化して、ついでに自己像も美化しすぎ、ナルシスも逃げ出す、水仙もかれるんじゃないかという、うぬぼれっぷりですから。もう呆れを通り越して、害悪レベルなんで、まあ今は誰も読めませんけどね」

「よ、読めないって、まさか処分か、焚書か、表現の自由は!」

『あー、だからまた意味をずらすような使い方をしないで、ってもうニホンゴじゃないから仕方ないか。本はありますが、文字というか文章として読めないんですよ、我々良識あるニホン国民には。同じ文字なんですが、読み解けない、いわば単語ではない出鱈目にアルファベットを並べたようなものでして』

「そ、それじゃ、本があっても、ただの紙束…」

『あー、焚き付けとか、重石には多少使えるといって、持っている人も居るそうですが。あと、ネトニホン語族地区で多少所持されているとかいう話です、まあ、食べるためっていう話も聞きますけど』

「お、私の本をた、食べるだとおお」

『あー、貧しすぎて食べるものがないだそうですよ。あ、ちなみに私たちが食べれなくさせてるわけじゃあないですよ。それにネトニホン語族地区だって、集められた連中が外と話が通じないから自然発生的にできたようなもんですよ。自分たちの国というか、地域でロクに作物も作れないのに、ニホン国やら隣国の援助は表向き拒否するんで。だいたい彼らは逆にマトモな本が読めませんからねえ、園芸書とか自給自足のやり方とか』

「で、ではどうやって、生活を」

『あー、原発の廃炉作業に従事して、ニホン政府から金をもらってます。主に旧トンデン電力会社の連中ですが。彼らもネトニホン語族地区でしかコミュニケーションができないようで。あとの連中は金になるような技術は無いし、かえって支援を拒んでいるような様子なんで支援のしようがないですし。あの地区はイノシシやシカが出るようになったし、耕作放棄地もあるんで狩猟や畑仕事などをやろうとした連中もいましたけどねえ。なんか、自己流のやり方でやりすぎて、共同作業はできない、つるんでも内部分裂を起こしまくる、って感じで、うまくいかないらしいです。連中は前からそうですしね、しかも周辺住民にいやがらせするようになったんで隔離してるんですよ、意味不明の音声で威嚇するんで、女性や子供に嫌われてますし。そのため、商取引をしたがる人もいないんで、ますます衣食に困ってるそうです。まあ土地はあるんで、住まいにはそう不自由はしないですが』

「い、いや、そんなことは、あるはずない!だいたい、私はニホンのためにいろいろと書いて、行動…」

『あー、そう思ってるのは自分らだけってやつですねえ、他人の言葉をちゃんと聞かない、理解しようとしないで、自分の偏見を押し付けるばっかりだから通じなくなっちゃったんじゃないんですか。とりあえず、アナタ、ここにいられないでしょうし、ネトニホン語族地区まで連行させてもらいますわ』

「ちょ、何も手錠は!」

『あー、翻訳機をもってる私以外の人には言ってること通じないんで。アナタのようなネトニホン語を話すネトニホン語族は、わけわからないことをわめく凶暴な存在って思われているから、市民対策の一環で手錠をかけてるんですわ。無理に逃げようとして暴れて、市民の反撃をくらった例もあるんで、アナタのためでもあるですよ。ほら、見てごらんなさい、周りを』

言われてモモタンはあたりを見回した。

いつの間にか、彼らを囲むように大勢の人々が集まっていた。すでにかなり耳は遠くなっていたが、その声は充分に聴きとることができた。しかし彼らの話す言葉の意味をモモタンは全く理解できず、ただ憐れみと侮蔑の感情が向けられている事だけは微かに感じることができた。


どこぞの国では辞書には載ってないし、歴史にも存在しないような言葉やら何やらを平気で使ったり、さも事実であるかのように堂々と描き散らす方々がいるようです。真っ当な国学者やら歴史学者やらの多数の批判もモノともしない厚顔無恥ですが、あまりやりすぎるともう、異世界に追放されそうですなあ、いっそ世界を分けてほしいという声もちらほら。まあ、放っておくと本当に国が滅茶滅茶に…もうなってるかも。

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