百華繚乱
「ジン様、この警報はまさか…」
ジン自身の直感がこの魔力は本物だと言っている。この魔力は天災級だ。グラズヘイム広場管轄軍の全戦力を投入したとしても確実に勝利できるかどうか怪しい。
「第五管轄区域の守護兵をできるだけ集めてそこに向かわせてくれ。俺は後から合流する」
「了解しました」
今回の作戦は完全に援軍頼みだ。我々の力だけでは対処できるような代物ではない。第二管轄区域のラスターに要請するか…
「ジン、聞こえるか」
「国王様!?なんで国王様が、そんなことよりグラズヘイム広場中央付近で天災級の魔力が発生しまし」
「ああ、それは知っている。援軍を要請する必要はない。お前たちだけでなんとかなる」
「天災級をですか?そんな」
「私を信じてくれ」
突然の国王からの連絡と思考を読み取ったような発言に多少驚愕はしたが、天災級を相手することは絶対に不可能だ。
前回天災級が現れたのは二十二年前。当時の騎士団長直属の四百名の部隊が全滅し、最終的には騎士団の死者が五百二十三名、負傷者が千八百七十四名も出た。その死者の中には天災級と相討ちになった、世界最強とも言われた第五十三代騎士団長クロックも含まれていた。
底知れない恐怖を抱えながら戦場へ向かった。
紅く、黒く煌めいたグラズヘイム広場。何もなかった草原に一面の紅い華が咲き乱れている。ファイはただ突っ立っていることしかできなかった。不思議な点が何個もあった。一瞬視界が黒く光ったのは見間違いではない。もう失われたはずの漆黒魔法だ。そんなものを魔法について一切のことを教えていない状態で、しかもあの魔力量を使うというのも化け物だ。さらに一言一句間違えずに詠唱するなんて…。
「ファイ?どうしたんだ?」
「どうもこうもないですよ!今何をしたんですか!」
首を傾げるハジメ。ご主人様は自分で何をしたのかまるっきりわかっていない。今までも異世界から優秀な人材を捕まえてきたが、これほどの天才は今まで見たことがない。恐怖を覚えるくらいだ。
「俺はただ魔法を使っただけなんだけど」
やはり何もわかっていない。これほどに無自覚だと説明する気も起きない。
「はぁー。ご主人様、王都につけば王の側近の誰かしらが教えてくれると思いますよ、早く王都に行きましょう」
「いや、ちょっと待った。なんかイヤな予感がする」
「そんなことないですって、変なことなんて滅多に起こるものじゃないですもん」
「あーファイ。できれば今みたいな発言はしないでほしかったな」
ご主人様が何を言いたいのかわからない。今みたいな発言をしたところで何が変わるというんですか。
「ファイ、一つか二つ質問していいか?」
「いいですけど、突然なんですか」
あの魔法を撃ってからのご主人様は思考を読み取りづらい。
「粉末みたいなのってあるか?もしくは生成できるか?」
「あっちで買っておいた◯ッピーパウダーならありますよ」
「よし、二つ目の質問だ。粉をうまい具合に濃度を均等にする魔法ってあるか?」
「ありますけど、水の魔法ですよ?」
「ああ、あるならいいんだ」
「なんでこんなこと聞くんですか?」
「最悪の場合に備えてだ」
私の◯ッピーパウダーが空に吸い込まれる。
「私の◯ッピーパウダーに何してくれてるんですか!」
「ごめんな、今度買ってやるから」
そう呟きながら何かをするご主人様。空気に水の魔法を使って何をするのやら。まあ今度買ってくれるならそれでいいんですけどね。
「すまない、ファイ。バイクを出しておいてくれないか」
カチン。人使いが荒すぎる。
「ポテチとビールも買ってくださいね!」
「ああ、わかった」
「ジン様、ここって花畑かなんかでしたっけ」
「いや、そんなはずがない」
そんなはずがないのだ。ここは元々ただの草原だ。花が咲くことのない青々とした芝生だったのだ。つい昨日までは。それなのに今足元には紅い華々が咲き誇っている。これでは何を信じていいのかすらわからなくなる。
「ジン様、あそこです」
「ああ、わかった。守護兵!隊列を組め!」
「はっ!」
ここからではそこに何がいるのかすらはっきりとはわからない。ただ得体の知れないものに突っ込んでいく恐怖だけが存在していた。
「ファイ、バイクに乗ってくれ。イヤな予感が的中した」
これは完全にファイが立てたフラグだ。絶対に回収したくなかったフラグだが、そんな呑気なことを言っている暇はない。
「え、ああ、はい」
突然のことに驚くファイ。ハジメが粉末の調整をしてからまだ一分も経っていない。それにファイには何を根拠に的中したと言っているかわからない。
突然目の前から、だけではなく全方位から謎の軍勢が迫って来た。まだ遠くてわからないが、こんな辺鄙なところにあれほどの軍勢を送り込めるのは聖エセリアル騎士団以外には有り得ない。
「ご主人様、多分向かってきてるのは敵じゃないです」
「楽観視は禁物だ。俺はただ最悪の場合に備えているだけだ」
それでも、ファイは敵であるとは思えなかった。
隊列の最後列にいるジンにもこの膨大な魔力の元凶が肉眼で見え始めた。二つの人のような影。
「突撃用意!」
ようやく、中央にいた元凶のうちの一人と目があった。直後、口を動かすことができなくなった。軍で二番目の実力を持つ、国王の側近であるはずのファイがそこにいた。
「漆黒の華となりて爆ぜよ!百花繚乱!」
ファイの隣に立っていた謎の男が唱えた。あの漆黒魔法を、だ。ジンは理解することができなかった。
突然、空間が弾けた。視界が奪われ、隊列が完全に崩れきった。
「ファイ、しっかり捕まっておけ」
唖然とするファイに向けてハジメは続ける。
「あいつらはある程度の防具に身を包んでいたからあの程度なら軽傷だろう。心配することはない」
ファイは二つのことを考えていた。もしもハジメが敵としてこの世界に存在していたら。今の段階のハジメ相手でもこの国の戦力を全部投入しても勝てる気がしない。今のハジメは魔法に関して何も知らない。さらに魔法の火力を上げることができると言うことだ。そうなってしまってはこの世界は終わりだ。救う手立てがない。もう一つの考え事は、本当にこの世界にハジメを呼んでよかったのかと言うことだ。ハジメは元々の魔力でさえ騎士団長に匹敵するレベルだと言うのにさっきは天災級だ。このままだと魔王関係なく人間の国同士の争いとなって醜く自滅する可能性だってある。
「大丈夫だ、ファイ。俺はそんなに誰かを持ち上げることは好きじゃないんだ」
そんな考えを察したかのようにハジメは言った。
「ええ、でも…」
「まあもしそんなことになったら、俺のことは切り捨ててもらって構わないさ」
そう言って声を上げて笑うハジメに、何の言葉も返すことができなかった。
王都に着くまで二人の間には長い沈黙が流れた。
初めての方は初めまして。初めてじゃない方はこんにちは。捨身祓です。
何か変なモノを食べたりした記憶もないのに腹を下している愚か者でもあります。
昨日今日で書いてて思いました。割と登下校中の時間を割けば一週間に二話投稿も夢じゃないと。
と言うことなので再来週からは二話投稿を目指して頑張っていきますので何卒。
そうでもしないと終わる気がしないので。
今日見た夢のおかげでラストの構想が思いついたのは嬉しかったですね。
それはそうと来週も投稿する(予定な)ので、読んでいただけると幸いです
二〇二三年八月二十七日




