華中の栗
さっき開けたはずの玄関の扉は跡形もなく消え去り、すぐそばに座り込むファイ。
「なんとかなった〜、これで今回も処刑されずに済んだ〜」
「…?ファイ、なんかいったか?」
「い、いえ、まさかご主人様を連れてくるのに失敗したら国王に処刑されるなんて一言も言ってませんよ」
「ん?」
「あっ」
空気が凍りつくのを感じて慌てふためくファイ。
「そ、それにしても、やっぱりこの噴水綺麗ですよね〜、あはは」
無理矢理な話題転換だが、綺麗なのは事実だ。東京とはまるで違う。何を隠そう、扉を開けた先が休日の公園の噴水のそばだったのだ。近くにいた人たちはみんな何もなかったところから現れたハジメたちが随分と気になっている様子だったが、いまや子供達に馬鹿にされるだけ。この世界に来て早々に恥をかかされることになるとは。この世界での生活は心がもたなさそうだ。
「ところでファイ。魔法の試し撃ちをしたいんだが、どこでできるんだ?」
「うーん、そうですね。うーん」
そう言いながらファイは虚空からバイクを取り出していた。魔法に一切触れたことがないせいで、マジックショーを見ているような気分にさせられる。
「ちょっと待った。ファイ、いま、バイクはどうやって取り出したんだ?」
「ぷぷぷ、ぶははは」
途端に吹き出したファイ。だってこっちは何も知らない魔法初心者だと言うのに何がおかしいんだと言わんばかりに拳を突き出した。
「可愛らしい女の子に拳を振り下ろすのは紳士じゃないですよ(イケボ)」
「それこそ人のことを笑うのは淑女じゃないと思うぜ(精一杯のイケボ)」
「いやいや、私はただの可愛くてか弱い女の子ですって」
「だから何だよこのや」
「なんで途中で拳を止めたんですか〜?あれあれ〜?」
可哀想なことに、この自称可愛くてか弱い女の子は周囲にいる人全員から注がれている、あまりにも冷たすぎる視線に気付かないようだ。
「いいから魔法を試し撃ちできるかなり広いところに連れて行きやがれ…ください」
「まあ?私は寛大だから?この拳のことと広場に連れて行くことは?レストラン・スウィープの?コース料理を?一回奢ってもらうという条件のもとで?許してあげましょう、私ってばほんっとに寛大なんだから」
「ありがとうございます、ファイ様」
「そうそう。私のことをもっと崇めて?」
周りからの視線がさらに強くなった。相変わらずエンジンがかかったままのファイは気付く素振りすら見せない。本当に可哀想だ。
「いーくーぞー」
「あ、ちょ、痛い痛い痛い痛い、髪の毛引っ張らないで。わかった、行くから行くから」
ファイは周りからの視線に今更気付いたらしい。
「ご主人様、周りの人からありえないくらい引かれてましたね」
「いや、普通に最初から引かれてたよ。何で気がつかないのか怖かったよ」
「いやいやいやいや。そんなわけないでしょ」
一切の感情が顔に出ないように全力でファイの顔を見つめる。
「うっ、マジの顔じゃん」
「俺は最初からそう言ってるんだけどな」
今度はファイが無表情で全力で睨んでくる。どうしたものか。
「はー、広くて魔法が使えるとこに行けばいいんでしょ。わかったから」
ため息をつきたいのはこっちの方だ。ファイにはレディーだなんだ言う前にその図太い神経を何とかしてもらいたいものだ。
「そういえば、さっきご主人様、このバイクを取り出す魔法、どうやって使うか気になってましたよね」
「そう言えばそうだな」
「教えてあげましょうか?どうやって使うか」
ファイがあまりにも素直だと逆に怖くなる。まだ会って三時間くらいしか経ってないと言うのに、ここまで騒げるのは久々だ。
「いいのか?ファイ」
「大丈夫ですって、お金取ったりとかはしませんから」
「自分がそういう人だって自覚あったんだ」
「え、私をそういう人だと思ってたんですか?流石に酷すぎません?」
言い合うたびにバイクが蛇行運転をする。周りの歩行者たちが本当に可哀想だ。
「いいですか、教えますからね。耳の穴かっぽじって聞きなさい」
「ありがとうございます、ファイ様」
「モノを持ってここのあたりをグリってやると、ギュイーンってなって、スーって行くから、そのままグッってやって、そこでモノを離せば保管されるから」
「まともに喋ってたの最初と最後の一部だけだろ」
「せっかく教えてあげたのに」
後ろからでもわかるくらい頬をぷくーっと膨らませている。これが普通の女の子だったら可愛く見えたのだろう。前に乗っているのがファイなのが残念だ。
十分後。歩行者を三人ほど轢きそうになる運転にヒヤヒヤしたが、何とか目的地の広場に着いた。が、俺の思っていて広場とは違う。なんていうか、香川県くらいの面積はありそうな広場、もとい平野だ。これが国の中にあるってことは、この国相当広いんじゃないか。
「ご主人様、この広場、ぐらずへいむ広場って言うらしいですよ。変わった名前ですね」
「へぇ。これはお前を派遣した国の土地か?」
「うーん、微妙ですね。ここは国の土地といえばそうなんですが、私たちの国の宗教の神の土地に近いんですよ」
「そんなところを魔法使えるところにして大丈夫なのか?」
「それは、一部の物好きが神と戦いたいって言うからなんですよ。本当に困った人たちですよ」
「実際に今まで戦った人はいるのか?」
「今のところ記録に残っているのは一パーティーだけですね」
「で、そのパーティーはどうだったんだ?」
「敗走したらしいですよ。馬鹿ですよね、ほんと」
本当はそのパーティーが挑んだ理由を知りたかったが、そんなものをこいつに尋ねても意味がないと思い込んでしまっていた。まともな答えが返ってくるわけがないと。
「ご主人様、魔法を試し撃ちするんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだったな」
まずは火を出してみよう。
「炎の魔法は難しいですよ。炎は触れると熱いですけど、実体があるわけじゃないので。まずは水が無難だと思いますよ」
なんかよくわからないけどファイに心を見透かされたような気がしたせいで、考えるより先に口が動いてしまっていた。
「色の無い世界に咲く、儚き一輪の華よ。この現世に黒より黒き漆黒を纏いて顕現せよ。そして韓紅の煌めきを持って咲き乱れよ。鏡花水月!」
「国王様、大変です」
「なんだ?」
「グラズヘイム広場の中心付近に膨大な魔力を検知しました」
「どの程度だ?」
「解析中です…国王様に匹敵するレベルです」
国王の口元が緩む。
「待っていたぞ、ハジメ」
初めての方は初めまして。初めてじゃない方はこんにちは。捨身祓です。
自己満で設定した期限すら守れない愚か者でもあります。
夏休みを全力で謳歌しまくった結果、ゲーム三昧の生活になってしまい、なんとも虚しいです。
まあまだ二十九時なのでセーフですが。
今回初めてまともな魔法っぽいもの使わせましたが、魔法って決まると気持ち良さそうですよね。(←脈絡を考えなかったものの末路)
来週も投稿する(予定な)ので、読んでいただけると幸いです。
二〇二三年八月二十日二十九時




