第83話 冒険者ギルド
タルの街へ入ってからは、少なくとも毎分死を向かえるような目には合わずに済んだ。木々によって浸食された、寺院を思わせる巨大な石造りの建造物だ。見知らぬ神像の足元に商店街があり、グンルとロガトルはそこを進んでいく。
そこいらに謎の肉塊があり、住民が時折その中に手を突っ込んで立ち尽くしている。あれは何かと聞くと、ロガトルはあれは〇〇さんだとか、■■家の親爺さんだ、とか人名を答える。変異した人物なのか、と尋ねると、最初からああいう人物だ、と平然と言ってくるので、グンルもそれ以上聞かなかった。
ロガトルと同じ、奇怪な生体鎧を纏った人々が集う建物があった。これが〈冒険者ギルド〉らしい。グンルが入ると、大柄な冒険者が近づき、
「おう、お嬢ちゃん、ここは遊び場じゃないんだぜ。ママの所へ帰りな!」といった内容を口走る(ロガトルが通訳した)。
無視しようと思ったが、別の正義感が強いらしい冒険者が管状の生物をそいつの首に差し込んで寄生させ、体内で何かの反応が起こり大量の汁と肉塊と元々寄生していたらしい生物をまき散らせる惨事となった。それでも、グンルを煽って来た悪漢は何らかの薬液を服用し、傷口からの流出を停止させた上で「なんだぁ? 余所者の嬢ちゃんにいい顔しようってか、てめえ! 相手をしてやるから表に出やがれ!」と言って、二人は建物を出て行った。
「冒険者ギルドにケンカは付キ物だ、気にすルな」とロガトルは言ったので、グンルは頷き、彼が襲われた貴族についての報告を済ませるまで、併設された酒場で何か飲むことにした。
メニューの文字もまた見たことがないものだった。この地は環境といい、エノーウェンと混じり合った異世界の影響が色濃く出ているようだ。グンルは何か分からぬまま指差して適当に注文した。
その飲み物はイーグロンでもよく見る補給液〈赤ドロ〉に似た色合いをしていたが、中に刻んだ果物と何かの目玉や肉片が混じっており、グラスの下部に緑色の層などが見られ、尋常の飲料には思えなかった。一口飲むと、異様に甘ったるい以外は特に異常もなかった。だが、幻味なのかそうでないのか分からないが、舌から何らかの情報が伝わって来る感覚があった。離れた場所の地中にいる〈女王〉あるいは〈司令塔〉みたいな存在が信号を送って来る。甘さやすっぱさではなく、帰属意識を味わわせてくれるカクテルというわけらしかった。それが終わった後、舌の上に何らかの構造物が追加されていた。潰すと、非常に苦い味がして、気が付くと店内に目玉を抉り取られた獣がいて、グンルを見ていた。
これまで何度も見知らぬ鳥獣や人物が幻覚として現れることはあったが、どこかを欠損している姿などは初めてだったので、グンルは注意深くその獣を観察した。真っ白い毛を生やしており、姿はバッファローとかヌーといった動物に似ていた。虚ろな眼窩から流れる赤い血が毛を汚している。




