第82話 救出者
導き手として生み出されたはずのヤズデギルドも、ヒューリズは管轄外とばかりに消えていた。ロガトルはというと、実に巧みに脅威に対処していた。冒険者にとってはこれが日常なのだ。
彼が纏っている奇妙な装束は、それ自体が変形し武器として活用可能だったが、明らかに関節を無視して体を変化させたり、触手や牙といった部位を生やして敵をいなしたり、自由自在だ。
ヒューリズの民は何世代もかけて自らの肉体を、この過酷な環境に対抗するために改良し続けてきた。冒険者はさらに過激な改造を施し、呪具によって変異させ、時には魔物を寄生させることで力を底上げしているという。
相変わらず死に続けるグンルだったが、既に慣れ始めていたところで、女性の悲鳴が聞こえた。
ロガトルは救援に向かうと言ってすさまじい速度で駆けていく。グンルも、銃弾のように種子を発射する花によって穴だらけにされながら後を追う。
そこには横転した馬車があり、外骨格に覆われた大きな猫のような騎獣が大量の巨大トンボに襲われていた。数人の兵士たちと、一人の妙齢の女性が相手をしている。彼らは灰白色の肌をしており、額には丸い目のような器官がある。あれがヒューリズ人の特徴らしい。
彼らは光の刃を放つ剣や、触手で貫く小型の軟体生物などを手にし、武器として振るっていた。
ロガトルが何らかの魔法具を取り出して掲げると、蟲たちは同時に地面に落ち、動かなくなった。
彼らは何事かを話していたが聞き取れなかった。訛りがきついのと同時に、唸り声でまくし立てているようだった。この地はもともと帝国の軍事施設があった場所で、ベースは旧帝国時代の共通語のはずだが、それが隔絶した地区で千年間の間、彼らの肉体と同じく変化し続けたためだろうか。
助けられた女性は、蟲に侵入されかけたのか、耳から謎の液体を垂らしながらロガトルに頭を垂れた。後で彼が教えてくれたところによると、彼女はタルの貴族の娘であり、是非ともグンルとロガトルを屋敷に招待したいという。ロガトルは「当然のことをしたまでです」と固辞し、その場を後にした。
グンルはどうして断ったのかと聞いたが、貴族のいる場所だと色々と面倒だからとロガトルは言った。何やら貴族に大して嫌な思い出があるような含みを持たせる感じだったが、全身にキノコを生やしたゴブリンが迫ってきているのでグンルはそれ以上聞かなかった。




