第80話 冒険者ロガトル
霧の層を抜けて北と思われる方角へ進んでいく。ヤズデギルドと彼が召喚した帝国兵二十名は未だ健在である。座長の妨害がなりを潜めているのは、グンルの意志に屈したのか、雌伏の時と考えているのか。
「おい、アメリア。何か暑くないか?」
未だにヤズデギルドは、グンルのことを〈アメリア・シルキー〉呼ばわりする。既にそうではなくなったはずなのに、未だ内部にその一かけらが存在しているのだろうか?
彼の言う通り、周囲はどんどん気温が上昇しているようで、湿度も高まっている。帝国に飛ばされた際、砂漠を進んでいるといきなり大森林に突入したことがあったが、またしてもそのような状況なのだろうか。
霧が完全に晴れ、周囲が露わになった。自分が虫けらになったような、恐ろしく巨大な植物が辺りを覆っている。
「まさか、ここはヒューリズじゃねぇだろうな? 南の果てだぞ。アメリア、どうにか戻ることはできないか?」
自分がそうしたいと思っただけで、転移できるほどこの非現実の世界は甘くはない。ここで何らかの鍵を見つければ、恐らく北方に更に近づける、これまでの経験からすると、そうだ。
「いかにモここはヒューリズの地、首都ミッデンかラ二日の位置ダ」
茂みの中から声がした。そのアクセントは教科書通りの共通語だったが、ところどころで不自然に声が裏返っている。
「そこにいるのは誰だ、この地の迷宮守りか?」
「いや、迷宮守りデはない、わたしは冒険者なノだ」
姿を現したのは奇怪な人物だった。顔には竜とライオンと蛸を混ぜたような、怪物のような仮面を付けている。身に纏っているのはどこか柔らかそうな質感の鎧とマントで、そのすべてがぬめりを帯びているように見え、目の錯覚か、時折脈打っているような気がした。無数の管が各所を走っているが、グリモの衛兵のような金属的なものではなく生物的で、触手や血管といったものを連想させた。
「わたシはタルの冒険者ギルド所属、銀級冒険者ロガトル。そシてフュルギアの座員デもある」
〈冒険者〉とは、ヒューリズ大陸における迷宮守りに当たる職業である。この地の人々は、イーグロンの多数の住民とは違い、この職に誇りを持っている。
「ロガトルさんよ、ここは現実のヒューリズなのか? あるいは、アメリアが見ている幻影に過ぎない、非現実の地なのか?」
ヤズデギルドが重要な質問をした。恐らくは後者であることは彼も分かっていたが、この迷宮化した隔絶大陸があまりに危険すぎて、口に出さざるを得なかったのだ。
疫病、呪詛、そして恐ろしき魔物。通常は迷宮の奥深くでなくば出会えない、人族にとっての禁忌がこの大陸中にはひしめいている。




