第75話 流刑
考えてみればここの所、ドリフターズレックもニンフェルも〈輪の大陸〉も、慌ただしくすぐさま脱したので、ちょっとばかりこのフォグブレイクではゆっくりしたいとグンルは思った。
このごろになると食料の供給源だった輜重兵スワロウテイルがおかしくなりはじめ、腐った食材や得体の知れない軟体動物などを差し出してくるようになっていたので、グンルは迷宮公社からアンデッド退治の仕事を斡旋してもらい、迷宮芋や赤ドロ、人造肉などといったおなじみの安い食事をするようになっていた。
ドルシネアはほぼ何もせずにただ随伴するだけになっており、辺りのものを壊すから危ないという理由で〈傑士の剣〉はそこいらの地面に投げ出していた。記録係という役職も既にかなり怪しくなっており、過去の記録を聞かせて欲しいと言っても散文詩のようなものをぼそぼそと朗読するようになっていた。
ある時、公社の外が騒がしいので見てみると、立派な鎧を着た騎士がパン屋の店主に手枷を嵌め、連れて行こうとしているところだった。
ルネッタが動揺する声が聞こえ、幻聴が、あれはソラーリオの〈天啓機関〉という所の騎士だと説明する。彼らはダグローラ正統教会や他国のいかなる勢力にも従わない独立組織であり、〈予言者〉の最大手だった――数多くの企業や国家、個人が未来の情報を売り買いしているが、天啓機関はエノーウェンそのものをおびやかしかねない災厄を事前に知り、その原因を取り除いている。
「我、晴眼の巫女様ならびにリルマール・ベルカ祭祀長の代理人たる騎士ヴィットーリオは、災厄の元凶をここに拘束し、アウル島送りとせん」
パン屋の店主はむすっとした顔で沈黙している。あるいは、騎士が魔術を用いて黙らせたのかも知れなかった。
「おい待ってくれよ、ソラーリオの騎士様。オヤジさんが何をしたってんだ?」
近所の人たちが声を荒げるが、ヴィットーリオは淡々と答える。
「こちらの方は今は何もしていないが、わたしが何もしなければ来月この地は滅ぶのだ。彼が命装を授かり、それを暴発させたことによってな」
令状などもない、グンルからすれば乱暴な拘束だったが、ルネッタは天啓機関が何かをでっち上げたことはないし、今後もないと断言した。どれほど信用できるのだろうか。だが、少なくともパン屋の店主や周囲の人々は、不満そうな態度を隠しはしなかったものの、騎士に対し抵抗することはなかった。
あの店主はどうなるのだろうか、とグンルが問うと、島流しとはいえどアウル島で市民生活を送ることが出来ると答えた。彼の地の迷宮は全ての魔術や命装、魔法具などの不可解な力が剥奪され、この大陸よりもずっと平和だという。そこから脱した者はほぼいないので、真実かどうかは分からないが。グンルは彼が、引き続き地域の民に愛されるパン屋であることを願った。




