第73話 霧に閉ざされし街、フォグブレイク
この場所はグリモの東部にある〈フォグブレイク〉という都市だった。グリモはどこでも、無数の魔導機械が出す蒸気で街全体が覆われているが、この地はそれとは別に街の外側が、深い霧で包まれている。さながら台風の目のように、霧の壁が聳え立っているのが見える。
「ずっと昔からそうさ、ここの住民はみんな、フォルディアの奴らが何かをしたんだと考えている」
レストランで出会った迷宮守りたちがそう言った。彼らはゴーグルと帽子、真鍮の装飾、正体不明のごてごてとした機械などを身に付けている。
「あの国はマッドサイエンティストばかりだからな、何をしててもおかしくはないさ。ここから出るときは霧の中にいる魔物に気を付けろ。あんたがよっぽどの腕前じゃなきゃ、地下鉄を使うのが賢明さ。不死だって? だからって油断はできないぜ。あの霧は人を狂わせる。幻覚や幻聴が――それも既にある? じゃあ大丈夫かもな」
とりあえず北に進むという目標は順調に進んでいる。だが、なるべく強い意志を発揮しなければ、また妙な場所へ転移してしまうかも知れない。コスの大砂漠に逆戻りしたり、ヒューリズやアウル島、どこぞの迷宮の深層など危険区域に放り込まれたら厄介だ。ワイルドハントたちにも、より注意しなければならない。奴らに殺されるのには。
レストランでの仕事を終えて外に出る。夕暮れの通りには、やはりドヴェルの数は多いし、銃を携行する者たちもよく見られた。フォルディアを追放された魔力を持たない者たちは、長年こちらに脱出し続けている。逆にグリモの魔術の達人が、あちらに移住することもあるが。
巨大な機械仕掛けの巨人が道を横切っている。グリモの国内で見られる、騎士階級が操る武装だ。数多くの、他では出土しない魔導機関がこの地の迷宮からは発見されるが、解析できたものはほんの一部だ。
「やあ、ようやく戻って来られた、久しぶりだなグンル」
突然、アーロンが眼前に現れている。自分の症状が改善しているか、コントロールできているのだろうか。
「あいにくそうじゃない、あんたには複数の症状が混じり合って発現している。エノーウェンと重なり合っている別の世界。かつて〈最果てへの途路〉を旅した者の記憶。マルゴルがおせっかいにも見せたがっている幻視。あんたの脳が作り出した夢。〈座長〉があんたの内部に入り込んだことによって生じた影響。これらが重なり合ったり、くっついたり離れたりを繰り返し、その間隙からオレはどうにか今、顔を出したわけ」
〈ワイルドハント〉に対して取るべき対策はあるだろうか。
「逃げるしかないね。あんたはちょいと、不死を頼みにして油断しすぎたかも知れない。相手をしてやろうだなんて考えなければいいんだ。不死者ってのは死にながらそれを学んでいくもんさ」




