第70話 PARHELLION
歴史上、数えきれないほどの〈勇者〉が現れ、〈大悪魔〉を討伐してきた。そのベンシックもまた、そうだった。
「君も知っているだろうが……」勇者は灰色の目でグンルを見つめて言った。「勇者というやつは、大悪魔を倒すことが使命だ……もちろんそうではない者――殲滅屋ゼノビアや悪魔狩りギデオン・ロシュフォール、気まぐれを起こした魔人など――が倒した記録もあるが、大抵は神々より直接に力をさずかった勇者がやり遂げる」
フラットフリントの鱗は緑色で、目元から鼻先にいくつかの傷跡が走っている。それが大悪魔との死闘の末ついたものなのか気になったので、グンルは尋ねた。初対面の相手に対し、ともすれば不躾な問いかけだったが、彼は調子の変わらない低く平坦な口調で答えてくれた。
「いや……これは昔、迷宮で負った傷だ。〈盟主の飼い猫〉っていうでかい豹みたいな魔物によってつけられた……君も、奴には注意することだ。特に八の月と十の月には狂暴になるからな」
あなたはどのような大悪魔を倒したのかとグンルが尋ねる。
「ああ、あれだ」
フラットフリントは空を指さした。そこにはやや薄暗い、第二の太陽があった。コスの月のように、この地域だけ二つになっているのだろうか。
「いや、あれは死体だ……わたしが倒した大悪魔〈パーヘリオン〉のな……あの偽りの太陽の中には暴れ者が隠れていて……さらにその内部に獅子が……おまけに地獄も巣くっている……犬もいたがな、太陽の犬が。外殻を破って、一つずつ、破壊しなければならなかった……死体は腐ったりすることもないし、ずっとそこに漂っている……もっとも、無害なので、トロフィーなのだと思うことにしている……
あれは、ダグローラの敵対者だ……本物の太陽にとって代わろうとしていた。例えて言うなら、君主のそっくりな兄弟が、本物を暗殺して成り代わる……実際に、旧帝国時代に、そういう簒奪者がいたと聞いている。そいつは兄弟ではなく、変身術に長けた邪悪な魔術師だったらしいがな……」
グンルは荒野にいた。迷宮の内部に広がる〈輪の大陸〉に。なぜ彼女が勇者フラットフリントと、ここで会話しているのか。
それは〈ワイルドハント〉によって殺害された後遺症だった。もとより一本道などではない〈最果てへの途路〉に、新たな曲折が生み出されたのだ。




