第68話 闖入者
「で、殺人蚤が湧いて出て、哀れ元漂流者は撲殺の憂き目に合ったのじゃ。未だにそやつの亡霊が当該階層をうろついており、まことに不憫よ。一年に一度、封鎖を解いて蚤どもを殺しておるが、危険な割に大した魔石も得られぬのでな。年々参加者も減っておるがゆえに、奮発して豪華賞品を出しておるわけじゃ。ルールは簡単、制限時間内に蚤を多く屠った者の優勝よ。むろん命の危険もあることを了承した上で参加してもらわねばならんのじゃが」
バート翁の言葉に円卓の騎士は笑い、「迷宮に危険は付き物よ! それがしは恐れぬぞ」と豪快に宣言する。
ヤズデギルドも頷き、「オレたちも問題ない、というかアメリアは不死だから平気だ」
「なんと、そうじゃったか」
「そうさ、こいつは幻覚・幻聴を見やすいたちで、死んでもそれが非現実だったってことになる。これも幻覚だけどな。アメリア・シルキーになったグンルっていう幻覚を別のグンルが見ているわけさ、それも誰かの幻かも。とにかく尋常の手法じゃ、こいつは殺せないよ」
その台詞に観客がどよめき、歓声を上げ、花弁や紙吹雪がまき散らされる中参加者一同はエレベーターで上階に向かった。グンルは最初から、座員最強の戦士フィアスを投入するつもりであった。当該階層にやって来ると、いきなり人の頭ほどの蚤がすさまじい速度で突っ込んできて、グンルは首の骨を折って即死した。続けざまに、この階で死んだ者の霊やゾンビが殺到する。参加者たちはひるむことなく応戦した。
ミョルニルは斧を振りかざし、魔物どもを木っ端みじんにする。バート翁の孫である小バート少年は散弾銃を使って手早く蚤どもを蹴散らす。グンルの得意とするアンデッドが相手ではあるが、死んだ際に現実が変質し、視界すべてが緑色に霞んでいて、室内なのに太陽が水平線の向こうから昇り、それから目を離せずに自分で戦うどころではない。
フィアスを呼び出そうとしたが、代わりに見知らぬ人物が出現した。
ゾンビと見まごうばかりの、死人じみた顔色に、荒れ果てた出で立ちだ。
古い時代の、ヴェント騎士が纏う甲冑と、赤いサーコート。白い蝶の紋章。それは現在のヴェントを統治する騎士の政権〈ベレン軍府〉が、国内を平定するための大戦で滅ぼした、ロートザイデ家のものだった。
「やばい、アメリア! そいつは――敵だ!」
ヤズデギルドがそう言ったときには、銀の炎を纏った刃が閃き、グンルは騎士によって真っ二つに両断されている。




