第67話 錯綜街シェーファー棟迷宮大会
騎士ミョルニルがやって来たのは迷宮都市に無数に存在する、迷宮化によって不自然なまでに巨大化した、一棟のマンションだった。中は病院の待合室のような臭いがする。入ってすぐの所に広いホールがあり、十数名がそこに集まっていた。
「おお、なんじゃ!? 飛び入りの参加者が三名もか」白い髭の老爺が歓喜の声を上げる。「奮発して迷宮都市を景品にしたかいがあるわい! これでこたびの迷宮大会も大いに盛り上がろう。そなたらの名は?」
「それがしは騎士ミョルニル! ラウンドテーブルより我が名を挙げるために参った! 必ずや一等賞品の迷宮都市をわがものとして見せよう!」
「おお、いいぞ!」「頼むぜ騎士様!」このマンションの住民と思しき観客が声を上げる。
「オレは三つ目のヤズデギルド……えっと、こっちのアメリアと組んで出場ってのはできるのかい、その迷宮大会ってのは」
「もちろんじゃ、迷宮において魔物や競争相手が常に単独とは限らぬからのう! ヤズデギルドと、そっちの子はアメリアというのか?」
「本名はグンルだけど、今は〈アメリア・シルキー〉っていう状態に陥っているからオレはそう呼んでいるんだ」
「状態じゃと? 石化とか酩酊とか、狂戦士化みたいなものか?」
「まあそういうことだ、っていうかたぶん、その優勝賞品はアメリアのものになると思うぜ。予定調和っていうか。それを獲得しないとオレたちはこっから出られないし、これはそこに行きつくための過程なわけで」
「何を言ってるか分からねぇが、こいつは大型新人だぜ!」「ああ、優勝候補に違いない!」
ここの住民と思しき観客たちは酒を手にして盛り上がっている。
老爺はこの高楼の領主バーソロミュー・シェーファーと名乗った。同名の孫と区別するために大バートと呼ばれており、少年である小バートもこの大会に参加するようだ。
グンルは、迷宮大会の概要・ルールについて尋ねる。
「うむ、アメリア・シルキーよ、この大会はとある漂流者を偲ぶためのものであり、その魂魄が安らかに昇天することを願ってのものじゃ。この高楼は迷宮と化して久しいが、それは徐々にではなく、今から二百年ほど前に突如として発生したわけじゃな」
かの漂流者はそれまで迷宮守りとして各地を旅していたが、いよいよもって身を固めることにし、このニンフェルで出会った恋人との縁談が進んでいた。その両親は漂流者だった若者に危うさを感じていたために、条件として迷宮守りを廃業することを挙げていた。彼はお世辞にも腕っぷしが立つとは言えず、いずれ迷宮内で果てるだろうと思われたのだ。
弱いながらも迷宮に入らずにはいられぬ気質の持ち主は多い。財宝を手っ取り早く得るという夢を見ているか、あるいは単純に命のかかったスリルに魅了されているか。この漂流者は苦悩の挙句それらの誘惑を断つことを誓い、結婚後このシェーファー棟で暮らし始めた。
それは平和な生活だった。彼の住まいの一つ下の階層に、迷宮が出現するまでは――




