第64話 合成された導き手
アメリア・シルキーは地下鉄の中にいる。薄暗い魔力灯が車内をぼんやりと照らしている。乗客は、いびきをかいているエルフの酔っ払いが一人いるだけだ。
アメリアことグンルはたちまち違和感を覚えた。周囲はあまり、数世紀前のコス大陸っぽくなかったからだ。恐らく旧帝国時代のはずだが、どちらかというと今日のバカンに見える。これは、ドリフターズレックが成立するに至った回想のはずだが――
「厄介なことになったな、アメリア・シルキー! あのエビングハウスという男を通して、〈忘却の亜神〉の祝福が入り込んだようだぜ。すなわち、ありもしない過去の残滓、突発的に発生した記憶がな。もしくはお前がとうとう本格的に狂気し始めたのかもな」
目の前に正体不明の人物がいた。汚れた旅装を纏い、悪魔を象ったような仮面を付けている。額に第三の目のような穴が穿たれた、呪術的な雰囲気の面だ。だが、妙なことにどこか見覚えがあるような気がした。
「オレは〈三つ目のヤズデギルド〉、フュルギアの座員だ。オレは過去にお前と会ったことがない――はずだ。フィアスと同じ、作られた座員ってわけだ。彼がお前の強大な戦士のイメージから作られたように、オレはアドバイザーとして生み出された。お前の中に残ったドルシネアやアーロン、狂える〈座長〉の断片を使ってな。彼らはまだ消えたわけではないが、変質してしまった。調子が良ければ、先ほどのカルネアデスのようにまた現れるだろうけどな」
なぜそうなってしまったのだろうか?
「さあな、だが、ひとつ確実なのは、お前が放浪を定められた存在だということだ。それは大嵐の中心のように安定している確固たる事実だが、それを取り巻くすべては大荒れってわけだ。お前を北に行かせたくはない座長や、逆に向かわせたいあの灰色の影、お前の欠落した記憶、それらは、こう言ってはなんだけど二の次だ。ただ、荒れ狂う海を泳ぐように放浪は続き、その過程でお前は更に狂い、世界から引きはがされ、更なる放浪を続ける。どこに行きつくのかは、マルゴルでさえ分からないかも知れないぜ」
あなたは本当に目が三つあるのか。
「そういう迷宮病の症状もあるけど、オレは二つしかない。額を撃ち抜かれて死んだ奴が付けてた仮面を相続したのだ。オレが手ずから剥ぎ取ったのか、古道具屋で売られてたのを買ったのかはご想像にお任せするがな。ところでアメリア、そろそろ次の駅に着くぜ」




